余韻「ガタガタうるせー、わめくな。ぶつかっただけだろ」
そう言ってルカワは口を拭った。
いつも通りの喧嘩で誤って当たった。
ただそれだけ。
カウントしなければいい。
ファーストキスにはならない。
なのに。
喧嘩するたび深くなっていく。
オレはオレで受け入れて、口の中まで許して。
何も考えられない。
息が苦しい。
当たっただけ、なんてとっくに通らない。
起こるのは決まって二人きりの体育館。
部活中も喧嘩して触れることはあっても周りは気付かない。
一瞬掠る程度。
キツネがわざと顔を近づけて。
わめいたりしない。
ぶつかっただけとも言えない。
もう。
何度触れた、少し乾燥した薄い唇。
噛み付いて口の中でも喧嘩してるみてー。
熱い。
覆い被さるルカワと床の間に挟まれて。
聞こえるのは互いの息と水音だけ。
喧嘩しなければ何もないしキスもない。
恋人でもないのに。
バグった距離感。
誤作動。
ファーストキスにはならない。
それでも。
オレたちは今日も唇を交わす。
鉄の味の口吻を。