あなたと。【前提】
自機の名前はヨル
紫髪のミコッテ、ムーンキーパー族
緑と青のオッドアイ
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「あ!ヨル!ちょっと待ってくれ...!」
「...ラハ?」
「やっっと見付けた...!なぁ、あんた七夕って知ってるか...?」
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いつものように依頼を受けて、西へ、東へと駆け回りこなしていく。いつもと少し違ったのは、グリダニアで受けた依頼で各地を巡り、結局第一世界まで足を運ぶことになったことだろうか。
依頼を終え、そろそろ陽も落ちる時間だろうしオールド・シャーレアンにでも帰ろうかとテレポの詠唱を始めれば、聞き慣れた声に呼び止められた。
息を切らして駆け寄ってくる赤髪の彼は、今日は予定があると言っていたはずだけれど。
「そんなに急いでどうしたの?」
「あんたを探して追いかけてきたんだが、あと一歩のところで捕まらなくてな...」
用事があって探していたけれど、行く先々で既に別の地方へ行ってしまったと聞いて駆け回っていた、ということらしい。
ここまで忙しく動いているのだから、私情で引き留めるのも気が引けてリンクパールは使わなかったそうだ。
「...で、あんたに追いついて依頼を手伝えれば、時間をもらえると踏んで探してたってわけだ。次はどこに行くんだ?」
「ふふ、今日の依頼はもう終わったからナップルームに帰ろうと思っていたの。だから、この後の時間はラハにあげる。」
「終わったのか!?聞く限り大変そうな依頼だったと思うが、流石だな...!オレ、今日委員会の依頼でドマに行ってきたんだ。」
「あぁ、予定あるって言っていたものね。ドマは楽しかった?」
「楽しかった!ヒエンがお礼にって寿司を食わせてくれてさ...!今度あんたも一緒に食おう!美味かったぞ...!!」
「ふふ、いいの?楽しみ。」
「そうだ、それでさ。町人地で聞いたんだが、今日は七夕っていう日らしい。あんた、七夕って知ってるか?」
七夕、と聞いてピンとくるのは織姫と彦星というひんがしの国に伝わる御伽噺だろうか。
昔、織姫と彦星という愛し合った男女がいた。
互いを心から愛していたけれど、愛を優先してしまったが為に仕事が疎かになってしまい、怒った神様によって二人は引き離されることとなる。
けれど、お互い仕事を頑張れば、天の川と呼ばれる宙の川を渡って年に一度だけ会うことが許される。
七夕とは、年に一度許された逢瀬の日だった...はず。
「知識程度には...織姫と彦星が会うことを許された日、だったかな?」
「オレも行事として聞いた程度だからちゃんとした由来までは...七夕はさ、願いを書いた短冊を笹に吊るす行事らしい。」
「へぇ...?それは知らなかったな、何か意味があるのかな。」
「ヒエンが言うには、元は豊作を願う為に願いを捧げていたけどいつしか人の願いに移り変わっていったそうだ。
...その、それでさ...祭りをする、らしいんだ。」
「七夕祭り?ドマのお祭りは賑やかで明るくて綺麗だよね。」
「ああ、昼も綺麗でさ...その、夜は、花火が上がるらしい。」
「いいね、一緒に行く?」
「あっ!?く...っオレが誘いたかったのに...!!」
何か言いたげにしていたから、きっと行きたいのだろうと誘ってみたけれど少し違ったらしい。耳が垂れてしまった。
前に男心がわかってないと怒られたことがあったけれど、これもそうなのだろうか。むずかしい。
「お祭りかぁ...そうだ。ちょっと待ってて。」
「ん?勿論、いくらでも。ここでいいか?」
「うん。すぐ戻るよ。」
確か前に買ったアレがチェストに入ってたはず。
折角ならラハの分も用意しておけばよかったな。
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「お待たせ。」
「いや、気にしないでくれ。あんたを待つのはたのし...い...」
「...その、お祭りならと思って着替えたのだけれど...似合う、かな?」
白黒の生地に金の差し色が入った可愛らしい浴衣。髪に紫陽花を模した飾りを付けた彼女は、初めは照れたように目を合わせてくれたのに言い終わるとすぐに目を逸らしてしまう。
触れたくなる衝動を必死に抑えて近付けば、しっぽが跳ねて勢いよく飛び退いた。
「...なんで逃げるんだ?」
「いや、えっと、その。どうして近付くのかなって...」
「可愛い恋人の可愛い浴衣姿をしっかり見たいから。ほら、逃げないでくれ。」
「は、早く行かないと。花火終わっちゃうよ。」
「まだ陽が落ちるには大分時間があるな。恋人を愛でる時間くらいはあるんじゃないか?」
「う...」
「オレに見せる為に着てくれたんじゃないのか...?」
「そ、うだけど...!いざ見せるとなると、恥ずかしいというか、その...」
真っ赤な顔で一向に合わない目線を楽しんでいれば、観念したのか大人しくなった彼女を抱き締める。
背丈は同じくらいだけど、閉じ込めてしまえば小さくて華奢なことがよくわかる。やわらかくて、少し甘い匂いがする。
「似合ってるよ、凄く。...綺麗だ。」
「............あり、がとう。」
湯気が出そうな程赤い顔で、消え入るような声でそう言った彼女が可愛くて仕方ない。
髪を崩さないようそっと撫でてやれば、嬉しそうに笑ってくれるのが愛おしい。
リムサ・ロミンサの外れとはいえ、人の多い町だ。誰かに彼女を見られる前に移動すべきだと判断してテレポの詠唱を始めれば、倣うように彼女も唱え始める。
浴衣、いいな...普段部屋以外では基本拝めない鎖骨が見える。噛み付いたら怒るだろうな...
ああいう服、クガネに行けば買えるんだろうか。見繕ってくれって頼んだら選んでくれるかな。
来年はオレも浴衣着たいな、なんて考えていればすぐに目の前がエオルゼアとは様相の違う風景に変わった。
同じく無事に辿り着いた彼女の手を引いてゆっくりと歩き出す。
「昼も賑わっていたけど、夜は更に熱気が凄いな...!」
「...そ、うだね。ラハ、あの...」
「あ!たこ焼きあるぞ!あんたの部屋のキンギョと同じだな!」
「たこ焼き...!食べたい、ラハ、ちょっと食べてくれる?」
「勿論だ!半分こしような。」
「うん...!あ、そうじゃなくて、ラハ...!」
「ヨル!あれ!ワタガシ...?雲みたいだ...!美味いのかな...!」
「えっ、ど、どうだろう。食べてみよう。...じゃなくて、ラハ...!!」
「ん?」
「手...その、照れてしまう、から...」
「はは、かわい。人が多いし、あんたは慣れない服着てるんだからさ...このまま。な?」
「...うん。」
するり、と指を絡めればびくりと肩が跳ねて、そのままおずおずと絡めてくれる。
照れながらも賑やかな祭りは楽しいのか、段々と耳としっぽが元気になっていく様が可愛らしい。
入口から順に歩いていけば、色とりどりの屋台と食べ物、催しなんかが開かれている。
短冊の受付に着く前に、りんご飴を食うのに大苦戦している彼女と両手いっぱいに抱えた食事をなんとかしなければ...!!
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「...あ、あそこ!短冊書けるみたいだぞ。」
「そうだった、お願いか...特に浮かばないなぁ...」
様々な屋台の食事を楽しみ、射的と輪投げで無双する彼女に惚れ直し、出禁と言われて悲しむ背中を慰めつつ奥へと進めば短冊の受付へと辿り着いた。
「神様へのお願いなんだろ?オレなら...あんたと沢山冒険出来ますように!とかさ!」
「...それは私が叶えるから、違うのにして。」
むす、と少しむくれた彼女の頬をつついて内容を考える。
ひんがしに伝わる神様か...どんな人なんだろうか。
祭りが好きならスサノオのような豪快な人だったり?
彼女が会ったという四聖獣のように動物を模しているのかな。
沢山の神様がいて、何を願っても対応する神様がそれぞれ違うのだという話すら聞いたことのある国だ、どんなことを言ったって寛容に受け止めてくれるのかもしれない。
「...あんたは願い事、決めたか?」
「......うん。」
「へぇ!何にしたんだ?」
「...ひみつ!」
そう言って短冊を持って走っていってしまった彼女に呆気にとられていたら、後ろからそろそろ花火が始まると案内が聞こえる
急いで短冊を書いて彼女を追いかければ、既に提出し終えた彼女がにっこりと笑顔を携えて待っていた。
「...えいっ」
「あ!?オレの短冊!!」
にこにこしながら近付いてきたと思えば、するりと持っていた短冊をとられてしまった。
取り返す前にしっかりと内容を読んだ彼女は、困ったように笑って短冊を返してくれた。
「...ラハ、こういうのは自分の幸せを願うんだよ?」
「し、仕方ないだろ!願い...って上手く思い付かなかったんだよ...!」
目の前の英雄が、末永く幸せに笑っていることを願った短冊。
いつも彼女には直接伝えているが、実際に短冊を見られるのは恥ずかしい。
「オレの見たんだからあんたのも教えてくれよ。」
「んー...あ、花火。」
ぼんやりと空を見上げて歩く彼女の手を引いて、花火の見えやすいところまで歩いていく。
どこかによく見える場所があるのか、この辺りにはあまり人はいないようだった。
ドン、ドンと花火の弾ける音と、遠くから聞こえる人々の歓声。
隣で花火を見上げる少女の、色とりどりの光に照らされて輝く瞳から目が離せない。
「...明日も、明後日も...この先も、ずっと。」
「ん?」
「変わらず、綺麗な夜空が見られますように。」
「...ヨル...」
「________。」
一際大きな花火が上がって、彼女の言葉が掻き消される。
なんて言ったのか、こちらに視線を向けて愛おしげに微笑んだ彼女に何度聞いても答えてはもらえなかった。
花火、綺麗だったねと笑う彼女に、あんたに見蕩れて花火のことなんて覚えていないと言ったら、どんな顔をするだろう。
花火に目を輝かせるあんたが、一番......なんて。
余韻に浸るように空を見上げる少女の手を引いて帰れる今を大切に、この幸せだけは守りたいと心に決めた夜だった。