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重力や引力、自然に発生するそれらよりも強い力で地面に押し付けられる。ざりざりと音を擦りつく立てて石畳を滑った頬や肩、太腿が熱くなった。ガツンと棍棒で殴られたような衝撃が後頭部を襲い、万華鏡を通したかのように視界がひん曲がる。ぼやけた視野の中でふたりの人間の姿が見えた。白髪の人間と長い黒髪の人間。恐らくそれらは男と女。体躯からしてマスターよりも随分と大人であると思ったその時、頭を打った衝撃よりもずいぶんと柔らかな感触が体に触れた。温度のないそれが魔術の類であると気付いたときには、意識は深い海に沈むかのように落ちていった。
次に目が醒めたときには腕を組んで石壁に凭れ掛かる白髪の男が見えた。彼は目を瞑っていたが兎や狼などの野生の動物よりも鋭い感覚を持っているのだろう――ぼんやりと繰り返した瞬きの音さえ聞こえていたかのように、伏せていた瞼を開いてこちらを見据えた。
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