鰭のない副官とその隊長の話「へぇ、ここが隊長の住処なんですね。」
「まあな。」
「本当になーんにもない。」
「まぁ、そうだな。」
そう言って鰭のない副官はひょいと抱えられていたところから飛び降りる。
医局から出たばかりだというのに元気なものだ。
「治療が済んだら隊長のお部屋に行ってみたいです。」
先の作戦でインクに汚染された両鰭を切除した後、医局の入院に辟易していたこの副官に、何か褒美があれば耐えられるかと聞いて返ってきたのがこれだった。
何も面白いものは無いぞと言ったがそれでもと食い下がるので了承したのだ。
へー、ふーん、と言いながら何もない部屋を楽しそうにうろうろするので何が面白いのかと聞くと少し言い淀んでから、
「なんにもないけど、全部隊長の匂いがするのが面白くて。」
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