恋を知る「ダハトくん、私ね——恋をしたの」
ふわりと花開くように、とびっきり幸せそうに、ナディアが笑う。
「へえ、それはそれは。良かったじゃないですか、ナディア」
じく、と突き刺さる胸の痛みには、努めて気付かぬように。ダハトはいつもの得意の笑みを浮かべながら、彼女へと祝福の言葉を贈った。
この痛みを感じるのは、なにも今日が初めてではなかった。誰しもが寿命に怯えることなく、普通の人間として暮らせるようになった今。胸の痛みでメモリークラッシュを引き起こすこともないわけだが。それはそれとしても、ダハトはこの痛みにだけは堪えられそうにもなかった。
罪を犯した自分が、彼女のそばにいるべきではない。長い刑期を終え、ナディアには「さようなら」と別れを告げるつもりだった。しかし、ナディアに「どこにも行かないで」と泣きながら請われてしまったら、ダハトには突き放すことも出来ず。こうして、よくナディアの話し相手になっていた。
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