春仕舞い「……………ん、」
鋭心は形の良い眉毛を寄せて、しょぼしょぼと目を瞬かせた。ベッドには辛うじて横になってはいたが、どうやら昨晩寝落ちたようだ。この部屋の元の主が色々としてくれたのだろう。握っていたスマホを付ければ朝の6時を少し回ったところだった。ロックを解除すると、履修登録途中の画面が表示された。操作するとすぐに「タイムアウトしました」の文字が出てきて、鋭心を追い出してしまった。
昨日はたしか、映画系や演技系の授業を履修するか否かを迷っていたのだ。いやそれもそうだが、それだけのせいではない。
鋭心はあまり春が好きではない。成長したことの実感や、変化したことへの確信を持たないまま問答無用で年上にさせられるからだ。変わりたくてもそう簡単に変われない。どこか置いてけぼりにされているのを一番感じるのがこの季節だった。
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