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    Stjerne31

    @Stjerne31のポイピク垢。
    主にワンクッション必要そうな絵(エロとか)に使う予定。

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    Stjerne31

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    百鋭マンスリーの12月お題から『イルミネーション』です。
    体調不良の秀に「イルミネーション見て、写真撮ってきてください!」と駄々をこねられた二人が、食事したあとにイルミネーション見に行って、ちょっといい感じになる話です。まだ付き合ってません。

    ##百鋭

    ブライト・ライト・ナイトこういう時期なんだし、せっかくなのでイルミネーション見に行きませんか。
    そう提案したのは秀のはずだった。
    しかし、予定の前日になっても鋭心や百々人との私用のLINKグループには既読がつかなかった。C.FIRSTの中では誰よりもマメに連絡をするタイプの彼が珍しい。とはいえ、夕方ごろの待ち合わせ予定であったからリカバリーは効くし、きっと忙しいのだろうと静観していた。そして、ようやく秀から連絡が来たのは、当日の昼辺りであった。
    グループ通話でかかってきたものに首を傾げながら取ると、聞きなれない人の声だった。しかし後ろから「爺ちゃん!なんで電話にしたの!?」という悲鳴のような声が微かに聞こえて、その声の主が秀の祖父であることに、歳上の二人は僅かに動揺した。
    「はじめまして。いつも秀がお世話になっております。秀の祖父です」
    「……はじめまして。こちらこそお世話になっております」
    「あ、もしかして『鋭心先輩』さんでいらっしゃるのかな?実はですね、うちのが胃腸炎をやってしまいまして。今日、お二人とご予定があるのに連絡が難しいようだったので代わりにと……」
    「なるほど。ご連絡頂きありがとうございます。お大事にとお伝えください」
    鋭心が対応してそこまで話すと、秀の電話口がガサガサという音がした。
    「もしもし!?」
    「秀?大丈夫なのか?」
    「ほんと、連絡、メッセージ代わりにしてってスマホ渡したら電話するとは……ほんとすみません」
    秀の言葉に不謹慎ではあるが笑いそうになる。確かに、祖父母の世代だと文面よりも声の方が早いと電話をしたがる人が多い気がする。鋭心の祖父母もその気があったからなんとなく分かる。
    「構わない。日を改めよう。それより早く寝るんだ」
    「でも、うぅ行きたかった……」
    「ちゃんと治してから行こう?ね?」
    向こうから聞こえる声はいつものような覇気は無く、本当に具合の悪そうな声だった。そして何より、悔しさが電話を挟んだ向こうからでも伝わった。あまり長話をするのは良くないだろう。
    「──いや、先輩たち二人で行ってきてください」
    「……ええ?それは悪いよ。いいって」
    「いいじゃないですかっ。二人がイルミネーションで写真撮ってきて、このLINKに送ってくださいよ!」
    「落ち着け秀」
    「ダメなんですか?大事な時に風邪ひいた俺へのせめてもの情けだと思って、ちょっと浮世離れしてる顔のいい先輩二人が慣れないイルミネーションでぎこちなく楽しんでるところをメンバー特権でお裾分けされる権利ぐらいくださいよお願いしますっ」
    そう捲し立てる秀の声は若干涙声で、この会を何よりも楽しみにしていたのは彼自身だったのだなと同情した。そういえば、直前までやれルートだ、やれご飯どころはどこだと調べていたのは彼であった。さもありなん、である。
    「はぁ……はぁ………っ、あ……すみません……あとちょっとクラッとしてきたので切ります……」
    「わかったよ、わかった。マユミくんと行ってくるから駄々こねるのやめなよ。おじいさん困っちゃうでしょ」
    別の電話口から聞こえた百々人の言葉に、鋭心は一瞬ドキッとした。ああ、そうか。俺と彼で行くことになるのか。それを改めて確認するとなんとなく変な気分になった。
    「寝ろ、秀。次こそは、元気なお前とどこにでも遊びに行こう」
    「はい……すみませ……じゃあ、これで」
    そこまで会話をして、グループ通話が切れた。
    秀はとでしっかりした、利発的な人間だ。鋭心が同じ歳だった頃を考えても彼の大人びたところは常日頃感じるというのに、こういう時に歳下であることを猛烈に思い知らせてくる。実に可愛らしい後輩である。
    そんなことを考えていると、百々人から個別チャットでメッセージが送られてきた。そこには詳しい待ち合わせ場所についてだった。
    「ていうか、ごめんね」
    一通り予定をすり合わせた頃に、彼からそんなメッセージが送られてきた。何か問題があったのだろうか。
    「どうした」
    「さっき、僕勝手に二人で行ってくるって決めちゃったからさ」
    「いいんだ。お前となら二人きりでも構わないと思って何も言わなかっただけだ」
    そう送ると、すぐに既読はついた。しかし返信が数分待っても返ってこなくて、鋭心はそこで一旦スマホを置いた。出かける準備を一通り終えてからもう一度画面を見ると、百々人のメッセージが来ていた。なんてことのない、いつも彼が使っているスタンプだけだった。



    待ち合わせ場所に10分前に着いた鋭心が待っていると、予定時刻5分前といったところで鮮やかな金髪が目に入った。
    「お待たせ」
    「いや、それほど待っていない。それに遅刻ですらないからな」
    「それもそうだね」
    鋭心の言葉に百々人はくすりと柔らかく笑った。
    まずは秀が予約をしてくれていた店へと向かう。予約をしていた天峰です、という言葉はなんだか改まると少し気恥ずかしい。
    無事に席を通された二人は向かい合わせに座る。いつも大体秀と百々人が隣同士に座って、その向かいに鋭心が座るため、その名残だ。席につき落ち着いた二人は、メニュー表を見るために顔を突き合わせた。
    暫しの沈黙が場を支配したのち、こういう時に率先して色々決めてくれるのは秀であったのだと思い知らされる。彼の存在を感謝してしまうぐらい、まるで意見が出てこない。意見は出るには出るのだが、互いに譲り合ってしまって話が進まないのだ。
    「うーん決まらないし、どうせなら分かりやすく飯テロになりそうなやつにでもしようか。油っこいやつとか」
    「それは構わないが、秀は胃腸炎だろう?可哀想じゃないか」
    「アマミネくんも覚悟の上でしょ」
    「……お前は秀を揶揄う時には活き活きとするな」
    「そう見える?」
    そう言って、百々人は少し目を細めて悪そうな表情を作った。最近、少しだけ彼は変わったように思う。変わったというよりも、成長したというのだろうか。周りに圧倒されるだけの人間ではなくなった。その姿は鋭心にとって好ましいものだった。一方で、自分はどうなのだろうと疑問に思わなくはないのだが。
    「チキンか、ステーキでも良さそうだな。ハンバーグもいい」
    「ふふ、いいね。特にこの二つ美味しそうだから迷うなぁ」
    「なら、俺はこちらを頼もう。一口分ければいい」
    「え……?」
    「……あ、いや、」
    鋭心の何気ない提案に、百々人は浅緋色の瞳をまんまるとさせた。その反応に、自分が柄にでもないことを言ってしまったことに気づく。以前、秀と二人でご飯に行った時に彼がそう提案してくれたのが嬉しくて、無意識に真似をしてしまった。しかし、あれは秀だから許されるのであって、自分が提案するものでもなかったのかもしれない。最適解とは呼べない選択肢を選んでしまった自分に僅かに動揺しながら、鋭心は謝罪の言葉を口にする。
    「すまない。出過ぎた提案だったな」
    「ううん、嬉しい。じゃあ僕のと交換ね」
    しかし百々人は最初は驚きこそしたが、嬉しそうにふわりと笑った。彼も多くを語る人間ではないが、その言葉に裏表があるわけではない。彼は秀と同じぐらいに素直な人間だ──自分とは違って。だから、「嬉しい」という言葉に少しホッとした。
    こんなに一喜一憂しているのは、自分の言葉の選択に最適という自信が持てなくなっているからだ。何故ならば、そこに自らの意思が介入しようとしているのを自身が一番理解していたからだ。
    と、いけない。食事の前に色々考えることもないだろう。
    鋭心は少し目を伏せる。それから店員を呼んで、二人分の注文をした。
    他愛もない話をしていると、食事はすぐに運ばれてきた。百々人がステーキ、鋭心がハンバーグだ。二人はナイフとフォークを同時に掴んだところで、動きが止めた。
    「危ない、写真撮らないと……」
    「そう、だったな。習慣がなくて、つい」
    キラキラのアイドル、あるいは文武両道の生徒会長といえども、その肩書きを取り払えば二人とも食べ盛りの男子高校生だ。まあまあ腹が減っていったのもあって、写真そっちのけで食べそうになった。
    遠くにいる女子だけの席は、料理が来れば片っ端から写真を撮っている。あそこまでにはならなくても良さそうだが、アイドルという職業のことを考えれば、ある程度は彼女らを見習って習慣にした方が良いのかもしれない。
    鋭心は手元のハンバーグにスマホのカメラを向ける。加工アプリなどがあるようだが、その辺はよく分からない。何枚か良さそうな写真を撮ったが、ふと思い立ってスマホを上へと滑らせた。
    「……ん?どうしたのマユミくん」
    画面の中に百々人が映る。彼は同じように手元でステーキを撮ろうとしていたようだが、鋭心の気配に気づいた顔を上げた。そして、にっこりと花が咲くような優しい笑みを浮かべた。
    「っ」
    息を飲む。
    彼のタレ目がちな眦がさらに下がって、とろけるような表情になっている。鋭心は思わずシャッターを押してしまう。
    「っ、あ、すまない」
    「あはは、大丈夫だよ」
    「でも……いい表情だった」
    そう言って鋭心は先ほど撮れた写真を見せた。百々人はそれを覗き見て、「僕ってこんなにだらしない顔してるの?」と呟く。そんな風には見えないのだか、まあたしかに、とろんとしていて無防備そうではある。
    「マユミくんも撮っておこうか?」
    「では頼む」
    「はーい」
    そう言って百々人はカメラを鋭心に向ける。カシャと短い音がしたが、撮ったものを見せてくる百々人は、その出来に納得がいっていない様子だった。
    「上手いな。いいんじゃないか」
    「そうかなぁ。僕はキミの抜けた顔が撮りたかったのにな」
    そう言いつつ、彼はスマホをテーブルに置いた。あんまり写真を撮っていても、せっかくの料理が冷めてしまう。写真撮影もほどほどにして二人は、口をつける前に互いの食事を切ってさらに置いた。百々人はどうかは分からないが、少なくとも鋭心はこのように食事を分ける相手などいなかった。
    「ふふ、美味しいねこれ」
    皿の端に置いたハンバーグを一切れ口に運んだ百々人は、そう楽しそうに言った。鋭心も分けてもらったステーキを食べる。温かくて美味しい。ただ、少し分けあっただけなのに、なぜこんなに高揚するのだろう。
    「美味いな」
    鋭心はそう言って、口の端を綻ばせた。
    そのあとは他愛もない話をしながら2人は食事を終えた。そしてサービスだという食後のコーヒーを待ちながら、鋭心はぼんやりと向かいの男を眺めていた。彼はスマホを弄っているのだが、優しい眉をさらに下げて何かを悩んでいる様子だった。
    「どうしたんだ」
    「いや、写真送ってあげようと思ったんだけどさ」
    「ああ、いいんじゃないか」
    「なんて、書けばいいか分からなくて」
    ほら、いつも話し始めるのって大体アマミネ君でしょ、と彼は困ったような顔で言った。そこでちょうどコーヒーが運ばれてくる。百々人はカップを人差し指でちょいちょいと弄りながら、ああでもないこうでもないと唸っている。
    「別に無理に文面を考えなくてもいいんじゃないか。通知がいきすぎても迷惑だろうし」
    「ああー……そうだよね。じゃあ……」
    百々人はそう言って親指を動かした。すると鋭心のスマホにも通知がくる。グループチャットを開くと写真だけがいくつか流されていた。チャット欄に流されてゆく己の写真を見て、鋭心もそれにならう。
    「あ、既読ついた」
    「『うまそう。百々人先輩いい顔してますね』だそうだ」
    「そうかなぁ。なんか締まりのない顔じゃない?」
    「そんなことはない」
    鋭心は首を横にする。そしてもう一度画面を見ながら「可愛いじゃないか」と呟くと、百々人は浅緋色の目を一瞬見開いてから、何かを誤魔化すようにコーヒーを口につけた。
    「今の本心だって分かるから複雑だな……」
    「何か言ったか」
    「何もないよ」
    素っ気なくそう返され、一瞬どきりと心臓が跳ねた鋭心は、それ以上追求することもなかった。そして、ソーサーに添えられていたカラメルビスケットを摘んで、パクリと口に放り込んだ。
    食後のコーヒーを楽しんだ後、会計を済ませて二人は外に出た。いよいよ今日のメインだ。鋭心はマップアプリを開いて、目的地に向かって歩を進める。先程の一瞬の素っ気なさを見せた百々人はといえば、今は大人しく隣をぽてぽてと着いてくる。さっきのはなんだったのだろうか。
    「うー、寒い……」
    「今日は一段と冷えるな。百々人、手が赤い」
    「うん、手袋して来れば良かった。マユミくんのそれって革?」
    「あぁ……触るか」
    「おおー、さすがだね。じゃあお言葉に甘えて……」
    鋭心が手を差し出すと、百々人はそっとそこに手を重ねた。細くて滑らかな手だが、筋張っていて、存外に大きな掌であることを今初めて知った。
    「わ……ふふ、暖かい」
    百々人はそう言って、先程食事の前に見せてくれた笑みを溢した。何故かその表情に、鋭心の頬がふんわりと熱くなる。
    「暫くこうしていようか」
    「でも、」
    「見ていて寒そうだ」
    そう言って、鋭心は百々人の手に手袋越しで指を絡ませた。こういのをなんと言うのだったか、ああ役得というのだっけ。
    二人はそのまま歩き続ける。土曜日の夜で、まだまだ通りにはたくさん人がいる。しかしどの人々も誰かと一緒に来ていて、二人には目もくれない。
    「マユミくん、あれ」
    暫く歩いていると、隣で百々人がそう呟いて、空いている方の手で前方を指さした。
    「あれは……見事だな」
    「そうだね。綺麗……」
    そこには黄色味がかったイルミネーションが、街中を覆い尽くしていた。そして数多のライトに照らされているのは、楽しそうに散策する人々であった。
    レストランから歩いてきた場所も人通りは多かったが、ここは賑やかと表現するのが相応しい。
    「すごい、通りにお店も出てる」
    「クリスマスマーケットのようだな」
    「えーっと、ドイツのやつだっけ」
    「元はそうだ」
    「……ね、もっと近くに行ってみようよ」
    そう言って百々人が前に出て、繋いだ手を引っ張った。鋭心に断る理由などない。二人も光の海へと飛び込んだ。
    イルミネーションは街路樹に設置されていて、真下を潜ると光のヴェールが覆っているようであった。肌にあたる冷たい空気とは裏腹に、暖かい色の光と、周りから聞こえる楽しそうな人々の声は鋭心の心を癒してゆく。
    鋭心は脚の進みを緩めて、見上げる。
    「マユミくん」
    「なんだ、」
    ぱしゃ
    柔らかな声に名前を呼ばれてそちらの方を見た。すると、同時にシャッター音がした。
    「いい表情だね」
    そう言って百々人はスマホの画面を向けてきた。そこには頬を緩めて、とろんとした顔でカメラを見る自分がいた。あまりにも間抜けな顔に思えて、鋭心は眉間に皺を寄せた。
    「これもアマミネくんに送っちゃおう」
    「勘弁してくれ……みっともない」
    「僕は好きだよ」
    3cm下、重い前髪の奥から見つめられながらそう言われて、鋭心は口を噤んだ。百々人は機嫌良さそうにスマホを操作した。その時に繋いでいた手がそっと離されて、なんとなく寂しさを覚える。それと同時にポケットに入れていた鋭心のスマホが震えた。ああ、歳下のリーダーにあの写真を見られるのか。
    二人はさらに通りを歩き続けた。歩行者天国になっているおかげで、思い思いに過ごす人々と沢山すれ違う。暫く歩けばストリートピアノなんかもあって、そこでクリスマスソングを弾く人と、そこに喝采を送る人が集まっている区画なんかもあった。
    この時期から暮れまで、世間がなんとなく忙しなくも浮き足立っている雰囲気を肌で感じることは嫌いではない。むしろ、誰かが楽しそうにしているのはいいことだ。例えば秀や、今隣を歩く百々人がそうであればいいと、願うほどに。
    「マユミくんって、もしかしてクリスマス好き?」
    「…………何故?」
    「だって楽しそう」
    そう言われて、鋭心は反射的に口元を片手で覆った。
    「そういうつもりは……」
    鋭心はそう言って目を伏せる。楽しそうに見えていたのだろうか。それは場を考えれば悪いことでは無いはずだが、同時に強い罪悪感を覚える。
    ──それはきっと、この時間が、百々人と過ごす時間が本当に楽しいと、浅ましくも感じているからなのだろう。
    「…………ちょっとずつでいいよ」
    「…………」
    「ごめんね、変なこと言って」
    「違う」
    小さな声でそう呟いた百々人に、鋭心はそう返した。
    「違うんだ……その……まだわからなくて」
    「……うん」
    「上手く言葉に、できない……だが、」
    『もっと言えることがあるんじゃないかな』──隣を歩く彼の言葉がふと脳裏に甦る。
    はぁ、と一拍息を吐けば、白い気霜が浮かんで消えた。
    言えること、あるいは今、言いたいこと。
    「……お前とここに来れて良かった。お前と、見れて良かった」
    震えた小さな情けない声だったが、それは確かに何も取り繕うことのない、鋭心の本当の心の言葉だった。
    そして、靴の先ばかりを見ていた視線を、意を決して百々人の方へと戻した。
    彼の白い顔は、りんごのように真っ赤になっていた。
    「ぁ……百々人……?」
    「っ、ごめん、いま、勘違いしないように頑張ってるから待って」
    「あ、ああ…………?」
    そう言って、彼は長い睫毛を震わせて目を閉じた。それからふうっと胸を撫で下ろしてみせる。ふう、と息をついてから、彼は目を開けた。
    「よし、行こう」
    そう言って、彼は一歩、二歩と進んでいった。と思いきや、くるりと鋭心の方を振り返る。
    「マユミくん」
    「なんだ」
    「手、やっぱり寒くて……もう一度だけ、繋いでもいい……?」
    「………」
    「ぁ、ごめん、やっぱりなんでもな、」
    百々人が慌てて取り繕おうとしたところで、鋭心はその距離を詰め、手袋越しにそっと彼の裸の手を握りしめた。
    「ま、マユミく、」
    「俺はこうするのも、多分、す…………すき?だと、思う」
    そう言うと、百々人は驚いた顔をして見せたが、すぐに垂れ目がちの眼を細めて破顔した。上気した頬も相まって、いつもよりも年相応かあるいは少し下ぐらいの年齢に見える無邪気な笑みだった。
    「僕もね、好きだよ」
    手を繋いだまま、ふたりは光のトンネルの中へ歩いてゆく。後方からは、ストリートピアノで『もろびとこぞりて』を弾き始めたのが、遠くから聴こえてくる。
    夜が深まる前に帰らなくてはいけないことは重々承知の上であったが、どうしてだか離れがたく、だらだらと二人は帰る時間を引き延ばしていた。













    おまけ



    送られてきた写真を、スウェット姿で冷却シートを額に貼り付けた秀は、スマホをこそこそ見ていた。そこにはステーキを前にして柔らかな笑みを浮かべる百々人と、イルミネーションの下でこちらに優しく微笑みかける鋭心の写真が写されていた。
    (こういうの無防備な写真って、独占欲とかで人に見せないもんじゃないの?)
    秀はあの二人がメンバー以上の感情を互いに抱き合っていることを知っている。特に、百々人はやや自覚済みのようだ。今日だって、半分はやけくそであったが、もう半分は何か進展があれば面白いのにな、という気持ちで強引に送り出していた。ストイックな二人が恋という味を知ったらどうなるのだろう。そう考えると、同じくその味を知らないわけではあるが、だからこそなお心が躍る。もちろん、二人の幸せを願っているからからこそではあるのだが。
    (まあ信頼されてるってことなんだろうけど)
    いいけど、なんというか、もうちょっと自分たちのこと優先して欲しいな。
    そんなことを考えながらスマホに時たま送られてくる写真を遡る。するとまた、新たな写真が送られてきた。
    「っ、わ………あぁ〜〜〜最っ高じゃん…………」
    それは二人がイルミネーションをバックにして自撮りをしている写真だった。二人とも鼻の頭をほんのり赤くして、楽しそうにしているのが伝わった。暫くその写真の尊さを味わっていると、メッセージが送られてくる。
    『先程百々人と分かれた。今度は秀も一緒に』
    『アマミネくんが予約してくれたレストラン美味しかったから、3人でまた行こうね お大事に』
    その言葉に秀はにやける。返信をどうしようかと考えていると、急に部屋の扉がこんこんと鳴った。
    「こら、秀。寝ないと治るもんも治らんだろう」
    「はぁい」
    入ってきた祖父にそう言われて、秀は大人しく布団に潜った。薬をお盆に乗せて持ってきた彼は、秀の乾いた冷却シートを剥がして新しい物に付け替える。そこまでしてくれなくても、と気恥ずかしいところではあるが、ありがたい。
    祖父が出て行ったのを見て、秀はもう一度だけスマホを掴んだ。スタンプだけを送って、今度こそ布団を頭まで被った。
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