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    しきしま

    @ookimeokayu

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    しきしま

    DONE横顔
    (※独身×バツイチの元同級生)
    同窓会で久しぶりに会った柏木の薬指には、あるはずの指輪がなかった。
     すらっとした柏木のその綺麗な左手を見て、俺は喜びとも哀しみとも形容し難い、妙な感情を覚えた。あえて例えるとするならば、胸の奥で、悪魔が鍋を茹でているような感じだった。

     俺が柏木と会ったのは、高校の入学式だった。誰とも話さずに俯いている柏木を見て、俺は、大人しいやつだな、と思った。本当にそれだけだった。
     入学式が終わると、俺たち一年生は激しい部活の勧誘に逢った。俺はその人波をかき分けて、入学する前からずっと入部すると決めていた軽音部の部室に入った。そこでは、上級生たちがライブをやっていた。
     ライブは盛り上がっていたが、俺はうまくその空気についていけないでいた。ライブに行ったことがないわけではなかったが、演者も客も誰一人知らない中で、緊張していたのだと思う。そんな中で、ふと横を向いた時、隣にいたのが柏木だった。
     柏木は、乗ることも、乗ったふりをすることもなく、ただ黙って演奏を聞いていた。その真面目な横顔が、柏木と世界との境目が、どうしてか美しく見えた。

    「つまらない?」

     俺は、今日初めて会ったばかりのその 4473

    しきしま

    DONEパ◯活はじめました の バレンタイン の話です。駅でチョコレートを売っている店に長蛇の列が出来ていて、そこで初めて俺は今日がバレンタインデーであることに気づいた。時間に追われながら仕事をしていたから、そんな些細なイベントに目を向ける余裕もなかった。
     俺には関係ないな、とその群れを一瞥して、埼京線のホームへ足を運ぶ。今日は昼から佐藤さんに会うことになっていた。
     日曜日の埼京線は、通勤ラッシュほどではないにしろそれなりに混んでいた。吊り革に掴まりながら、空いている手でスマートフォンを見る。楽しみにしているね、という佐藤さんのメッセージだけが、切り取られたように俺の頭に滲んだ。
     新宿駅で降りて、東口に出る。待ち合わせをしている人の群れが街の喧騒を象っていた。カップルがやけに多かった。きっとバレンタインデーだから、みんな浮かれているのだろうと思う。恋人が見つかって笑顔を浮かべる男女を横目に見ながら、俺は佐藤さんを待った。
     佐藤さんは、待ち合わせの時間ちょうどに来た。ネイビーのフーデットコートを羽織って、黒いセカンドバッグを小脇に抱え、それとは別に、ベージュの紙袋を持っていた。

    「待たせてごめんね、朝陽」
    「いや、俺が早く来ただけな 2640