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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
    脳直に書いたら見直し一切せずにおいています。

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    きたまお

    TRAININGフランスに行くやっくんがキリンに打ち明けるだけの話やはり少し遠いな、と倉敷ヤクモは思った。以前はこの施設に来る際は、ほとんど車だった。今日は、あえて電車にした。同居人が通っているのと同じ道を通ろうと思ったからだ。
     品川駅から上野東京ラインに乗った。大宮駅までは乗り換えなく一本、乗車時間は四十分。大宮駅で降りてホームから階段を上り、駅構内の店を左右に見ながら西口へ。平日昼間なのに、大宮駅はなかなかの人出だった。看板を見ながらニューシャトル乗り場というほうへ進む。通路には幼児を連れた若い母親や、祖父母、メガネをかけた少年たちの姿が目立った。
     ニューシャトルはコンパクトな箱形の列車だった。入線時には昔のアニメの歌が鳴った。同居人はこんな音楽が鳴るなどひと言も言っていなかった。彼は知らないだけなのかもしれない。
     一駅、五分の乗車で目的地だ。親子連れや少年たちのほとんどがこの駅で降りるようだった。彼らと目的地は一緒だが、入る入り口が異なる。鉄道博物館の正面を通り過ぎ、裏口そばまで来てからヤクモは電話をした。
    「仕事中に呼び出して悪いね」
     内側からドアを開けた彼にヤクモは言った。長い金髪をゆらして、キリンはかまわない、と答える。キリンは、 2542

    きたまお

    TRAININGビームライフル少年の挫折と父との会話地元では誰にも負けたことがなかったし、北海道・東北ブロック大会にでても自分より強いものはいなかった。「今年の東北は男鹿アキタがいる」大人たちが自分の名を誇らしげに口にするのを聞いた。「しばらく東北の天下が続くだろう」「小学校三年生で全国優勝すれば、噂になって東北のビームライフル人口が増えるのではないか」
     文字通り負けなしで全国大会へ駒を進めた。そこで初めてライバルとなる存在に出会うことになった。神奈川県の男子だ。彼もビームライフル競技を始めて半年で、神童と言われていた。
    「同い年なんだ、よろしくね」
     彼は同年齢では背が高いほうだった。アキタの目線の上から手を伸ばしてきた。アキタは軽くうなずくだけにとどめた。試合前に戦う相手と手を組むつもりはなかった。
     アキタと彼は当然のようにファイナルへ進出した。ふたり以外は小学校五年生がひとり、残りは六年生で占められていた。最初の十二発で五年生が脱落した。五十秒で一発を二回繰り返すごとに、六年生が脱落していく。最後に残ったのはアキタと彼のふたりの三年生だった。
     ビームライフルは呼吸ですべてが決まる。身体の動きを止めるための重くて固いライフルコ 3181

    きたまお

    TRAINING初冬の北陸の湖で白鳥を見ているだけのイズホク(CPではない)——イメージちがったなあ。
     速杉ホクトはジャンパーのポケットに手を突っ込んで首をすくめた。視線の先には風でさざ波のたつ濃い青の湖。水面には無数の白い鳥がうごめいている。こんなにたくさんの白鳥を見たのは初めてだ。まとめて見ると、白鳥という生きものは身体がおおきくてぼってりしている。水面を移動しながら、長い首を縮めたり伸ばしたり、朝日を浴びてオレンジ色に染まった羽根を黄色のくちばしでつついたりと忙しい。そして、思っていたよりもやかましい。
    「先輩、これ、どうぞ」
     いつのまにか横に戻ってきた出水が、コートのポケットから取り出した缶をこちらに渡してくれた。受け取るとまだ温かい。缶コーヒーだ。サンキューと言って、さっそくホクトはプルトップを開ける。
     まだ十一月の頭だというのに、えらく寒い。どう考えても、もっと冬の装備でくるべきだった。移動の荷物を軽くすることにこだわりすぎた。東京駅で会ったときにも出水はずいぶんな大荷物だなと笑ったのだが、たぶん、出水のほうが正解だ。
    「さっき、あっちのふたりにも渡してきたんですけれどね、なんだか逆に迷惑そうな顔をされてしまいましたよ」
     出水が目線だけでさ 2151

    きたまお

    TRAINING「数式まみれの空箱」
    起動実験直前のスバさんとチクさんの話。ツイったにももうあげちゃった。
    ガラスドアは大人の胸のあたりの高さに幅二十センチくらいの白いラインがはいっている。部屋の外から見ると確かに白い。内側から見ると、黄ばんで見える。ラインの上下は透明なガラスなのだが、それもスモークフィルムが貼ってあるように見える。
     ——強力な空調があっても、駄目だよなあ。
     東スバルは口をぽかりと開けて、煙が出ていくままにした。いま、喫煙室には誰もいない。なにも面白みのない狭い室内を見るのも飽きて、小さなテーブルによりかかってガラスドアから外を見ていた。と、この組織には珍しい白髪頭を後ろでひとくくりにした老いた男が通り過ぎるのが見えた。珍しい、こちらに来ているのか。普段は自ら創設した大宮の研究所に閉じこもりっきりだ。その後ろに、黒い髪の毛をオールバックにした男が続いた。おや、これもまた珍しい。所長のおつきで来たのか。来月、大宮で大きな実験が行われるから、そのための打ち合わせにきたのかもしれない。
     男がドアの前を通り過ぎる際、一瞬、こちらに視線をよこしたようだった。一度、ドアを通り過ぎたあと、ふたたび戻ってくる。自動ドアを開けて入ってくるなり、形の良い眉をひそめた。
    「煙い」
    「喫煙室 2956