【アンダンテ・スピアナート 3】春組第六回公演『春ケ丘Quartet』は盛況のうちに千秋楽を迎えた。
満員御礼の客席、土砂降りの雨のような拍手。かつて夢にすら描けなかった光景が、確かに至の眼前に広がっていた。
そんな夢よりも現実離れした時間は過ぎ去り、おじいさんは山へ芝刈りへ、お父さんは川へ洗濯へ――ではなく、卯木千景は海の向こうに出張へ、そして、茅ヶ崎至は社畜として残業の日々を送る。
ぴんぽんぱんぽーん。
天井の高い建物に響く音色。間もなく搭乗手続きを締め切ります、と続いた女性のアナウンスに、至は何となく頭上を見上げた。その間にも旅行客や出張客が至の両脇を忙しなく行き交う。
空港の出発ロビーにひとりで突っ立っていた至は、視線を保安検査場へと向けた。窓の向こうの、飛行機の出発時間を待つ旅行客のさらに向こう側。窓の外を、ごおお、と音を立てて飛行機が飛び立つ。この間はあれを海から見たな、と至の頭の片隅を在りし日の景色が過った。
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