「亡霊の再臨、或いは死神の登壇」鬱、と呼ばれる青年の過去は、およそ謎に包まれている。
出身はもちろん、家族構成や身の上話などを彼が口にすることは殆どない。
せいぜい、現総統であるグルッペンと昔からの知り合いであることと、そのグルッペン直々にヘッドハンティングされたこと、そしてこの軍に所属してからのことしか明確なことはわかっていない。
煙に巻いたように掴み所のない冗談を重ね、嘘だと笑い、揶揄う彼。
噂は噂を呼び、実はとある国からのスパイであるとか、某国の元首相であるとか、凄腕の暗殺者であるとか、果ては宇宙人説まで出てくる始末。けれども、まぁ最後には、彼に関わった全ての人間は「そんなわけないだろうけど」と笑っていた。
——そう、そのときまでは。
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