「一族シリーズ」メモ『とある一族の話』
シャルル、と名付けられたその青い瞳の少年は、国が有する優秀な技術者である二人の両親の元に生まれました。
機械工学を専攻し国のマザーコンピュータの開発にすら関わった父親と、国の諜報機関の第一線で働く母親の間に生まれた彼は、類稀なる頭脳を持った明晰な子供でした。
乾いた大地に雨が染み込むように、父親からは機械に関する知識を、母親からは諜報のイロハの手ほどきを受けて育った少年は、国が欲する「人材」として育っていきました。
彼は優秀でした。彼の父親も母親も彼を慈しみ、愛を持って彼を育てました。彼はそれを良く享受しながら、優秀なる人材へと育ちました。
少年はいつか自分もお国のため、国民のために働くのだと理解していました。そこに疑問などはありません。痛いのも苦しいのも嫌いですが、そういうものなのだと受け入れておりました。大きくなったら、父と母のようになるのだと、信じていたのです。
信じて、いたのに。
地獄を見た。
地獄を見た。
赤い、赤い、地獄を見た。
父が燃えていた。母が燃えていた。血溜まりに沈む二人が炎に包まれていくのを、無力な自分は床に倒れ伏したまま見続けるしかなかった。
忙しい両親に代わり自分の面倒を見ていた乳母も、明日の献立を楽しげに話していた料理長も、小さな中庭を整えていた庭師も。
みんなみんな、炎に飲み込まれていった。
もはやこの屋敷には、自分を除く全ての人間が息をしていないのだろうなと、酸素と血が足りないことにより霞みがかった頭で思った。
燃えていく。燃えていく。何もかもが赤に飲み込まれ、消えてく。
流血により手足の末端が感覚を失っていくことよりも、焼け付く熱がじりじりと忍び寄って来ることよりも。
自分の世界を構成する全てが燃えて消えることが、何よりも恐ろしくて、怖くて。
けれども自分にはどうすることもできなかった。
こんなに簡単に世界は壊れるのかと思うと、もはや涙すら出てこなかった。
——そうして、自分の世界は一度、完膚無きまでに破壊された。シャルルはその時、死んだのだった。
(その時、番犬の一族は死に絶え、死神が生まれたのです)
以下一族設定
◯シャルル(シャルロット)/国の番犬、首刈り人
国の闇。国が飼う番犬で血濡れた歴史を背負う一族の名前。元々は死刑執行人であったがいつしか国の優秀な工作員となった一族(血縁関係はほぼない)。己の子を次代に選ぶものもいれば弟子を次代にした者もいた。
血濡れた歴史を背負う覚悟を持つとき、また先代が任務を果たせなくなったとき、男であればシャルル、女であればシャルロットと名乗る。
鬱もまた生まれた時よりその血濡れた歴史の後継者となることを定められた子どもだった。だが彼の両親はそのことを内心忌避しており、どうか自由に生きて欲しいと望んでいた。「ウツー」というのは彼の両親が彼が「シャルル」という鎖から逃れた時に名乗って欲しいと名付けた名前である。
地獄の中、一族とともにウツーは死に、シャルルが現れ、そして死んでいった。
シャルル=ウツーは亡霊の名さ、と彼は嘯く。けれどもその亡霊が、君の力になるのなら、まぁ地獄から蘇るのもやぶさかではないかなぁ。彼らに知られる勇気は、未だにないのだけれども。