無題 とある物語の青年の話をしましょう。
嘘吐きの青年はある男に出逢いました。
その男は今まで彼が出会ったどんな人よりも破天荒で、どうやって生計を立てているのかもわからず、それでいて人懐こくて、とにかく青年の心をざわつかせるには充分な存在でした。
男は明るく真っ直ぐで、人を疑ったりということを滅多にしませんでした。そんな彼に青年は自分のペースを乱され、つい流されてしまうのを感じていました。
青年にはどうしても完遂しなくてはならない野望がありました。一時の感情に流されるつもりなど毛頭ありません。寄り道をしている時間などないのですから。もしかしたら、その男を利用すれば近道ができるのかもしれない。そういった考えは何度か脳裏を掠めました。しかし嘘吐きにも矜持があるのです。
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