無声「紅い」
仰向けで天井を眺めるだけの彼が、唐突に言葉を放った。
何が紅いのか僕が訊くより先に、彼は言葉を続けた。
「黒い夜も、白い星も、紅い血に塗れて行く」
嗚呼、と零す彼。天井を眺めるその眼は虚ろで、何か幻影を見ているようだった。
「僕が世界を殺して終った」
酷く冷たい声で、彼は自責する。彼の眼に下に出来た隈が、痛々しい傷に見えた。
僕はそんな彼に掛ける言葉を、いつも思い付けないでいた。もっとも、彼の事情を何も知らない僕に、良い言葉が思い付けるはずもなかった。
彼の妹なら彼を助けることが出来るのだろうけど、彼は決して妹に縋ろうとはしなかった。唯、彼は時々こうして“他人”の僕の傍で、言葉を放つだけだった。
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