侵入猫(にゃ)キッチン台の前に立つネロの足元に、赤毛の大きな猫がすり寄ってきた。
「ぅおん」
「おっ……」
すり寄る、というには些か力が強い。ほとんど頭突きだ。しかし猫並みなので痛みよりも不意打ちによる驚きの方が大きい。ネロは拭いていた皿を立ててから足元を見やり、大柄な猫を億劫そうに抱えるとキッチンの外へ連行した。
「なにするんですか」
「悪いな。衛生的にちょっと問題あるから、外で聞く。……で、なに?」
赤毛の大猫は聞き覚えのある声で不満を訴えたが、キッチンは聖域である。猫はもちろん、人間だって衛生に対する意識のなっていない者は退去させているのだ。
ネロは猫を床に下ろすと、その場にしゃがみこんで尋ねる。この大猫がその辺の野良猫ではないことなら、知っている。そのことに猫の方も気づいているのであろうに、いつ正体を現すつもりだろう、と思いながら麦穂色の目を見つめた。
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