この夜が明けたら/二人朝日を見に行こう【この夜が明けたら】
そこに楽園がある。
役目を終えた鉱山に初めて滑走音が響いた日から約十年。クレイジーロックと新たな名を与えられ改造を施された鉱山では現在も月に数度Sと呼ばれる催しが開かれていた。重低音と共に開いたゲートを押し合いへし合い抜ける者達は年齢も服装も大抵ばらばらだが、どの顔もこれから始まる夜への期待で輝き、そして皆、腕や背、足の下に必ず“それ”を連れている。スケートボード。彼らはスケーターであり彼らを何より興奮させるSとはクレイジーロックを舞台にしたスケートレース。クレイジーロックはスケートを愛する者の楽園だった。
秘匿された楽園は不特定多数の来訪を嫌う。Sの無い夜はただただ眠り、Sがある夜も既定の時間が来るまでは目覚めようとせず、ゲートを固く閉ざし誰しもを拒む。それが常。正常な状態。
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