【ふみ天】「オム・ファタルの三面性」 ちょうど、天彦のショーが始まるところだった。暗く静まり返った店内に、妖艶な音楽が響きだす。ふみやは店内に足を踏み入れると、ステージ周りに用意された客席に適当に座った。店内を一瞥する。老若男女、サラリーマンから夜の蝶まで、あらゆる人々が、押し黙り、ステージの一点を見つめている。足元のライトに照らされて、見慣れた長身のシルエットがぼんやりと浮かび上がっている。
そんなに楽しみにするものなのだろうか、と思いながら、ふみやはスマホの画面を開いた。依央利とテラ、三人でのグループチャットにメッセージが送られてきている。
『奴隷:天彦さんのショー行きましたか?』
『テラくん:ちゃんと行ってあげるんだよ~』
お前らは初めから行くつもりなんて無かったくせに、と内心で悪態をつきながら、なんと返信しようか考える。
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