水差しの中身を満たした帰りだった。
夜明け間近なのか廊下は薄明るく、灯りを持たず、来た道を引き返していたイソップは自室の前で立ち尽くす人影に息を呑んだ。
こんな時間に起きてる人なんていないはず。
「…………な、にを」
「……何も」
すぐに誰か分かった、他でも無い恋人だったから。
しかし、いつもより軽装の彼は……
頭から爪先まで水浸しに見える。
「……濡れてる」
「水、被ったから」
「どうして、」
甘い香りが鼻についた。
何度か嗅いだことのある匂い。
「……そんな顔しないでよ」
どんな顔だろうか。
どんな、顔をしてしまったのか。
「……中に入ってください」
「いや、そんなつもりじゃないし」
そんなつもりじゃ無かったら、どうしてこんな時間に、そんな状態で、僕の部屋の前に立ち尽くしているのだろうか。
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