「お。よく眠れたか?」
タタン、タタンと揺れる中でゆっくりと意識を世界に戻す。年の割に幼い見た目の子供は、ぼんやりと下視界の中で嫌にハッキリと映る男の顔に安堵した。
しっかりと頷くと、男は子供の頭を後ろから撫でた。まだ手が視界に入るのは、怖いらしいからだ。
各駅停車の鈍行に乗り、かれこれ数日が経った。今日こそは目的の場所に着けるかもしれないと、男は端末を操作しながら時間を確認した。
「結局年内にはいけなかったな。ああ、お前のせいじゃないから気にするな。長々連れ回してごめんな」
子供が首を横に振ると、男は優しいなと笑った。
雪が深い地域に差し掛かり、そこで足止めを食らって大幅に予定が狂った。その地で年を明かして、人もまばらな電車に2人だけが乗っていた朝。男にとっては余り好ましくない状況だが、仕方が無いと子供に幅広な襟巻きを被せた。
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