眼裏に広がる橙色が、熱を持った太陽の光を閉じた視界に届ける。空を覆った雲はひび割れるように散り始め、その隙間から青空を覗かせていた。──帰ってきた、元の世界、私の世界に。ユンははしゃいだ様子で辺りを見回している。
いくつもの陽光の柱が照らし出すものの中に、ひとつの戦場跡があり、その中心にひとりの人影がある。
「お師匠!!」
魔力が叩きつけられて抉れた地面、いくつもの魔神の屍に足を取られそうになる。カラン、という軽い音、マーニ、と呼ぶ声が後ろから聞こえる。
藍色の髪が揺れる。目が合って、微かに緩んだ表情に、視界が歪む。足元に小さな衝撃があって、ぐらりと重心が揺らいだ。
あ、と声が漏れ出たつぎの瞬間、手を引かれて柔らかな布地が頬に触れた。よく知る匂いと、土埃の匂いとが私を包む。心臓が一度大きく跳ねた。私の手を引いた大きな手が、背中に触れて優しく叩く。
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