サファイアの瞳男は焦っていた。何処からか鳴り響く警報の音にも、このまま目当ての物が見つからないかもしれないという可能性にもだ。それでも男は手に持ったバールを手当たり次第に振り回してガラスケースを割っていく。無力の己を呪いながら、力任せに叩く。パラパラと強化ガラスが砕けた。照明が落ちて暗い室内でも男の目には硝子片が飛び散るのがよく見える。
こんな破壊行為を繰り返すのは危ないと気づいてはいるのだ。ここで何度目か分からない。それでもやらねばならない。男は覚悟を決めていた。そうして残り少ないガラスケースの一つを割った時、男は自分が探していたものを遂に見つけた。輝く小さく石を引っ掴むと大急ぎでその場を後にした。
「これだけは、これだけは……!」
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