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    tomatotmttomato

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    ※日頃ロナ受け書いてる人が書いています。🍰バースなる設定を見かけて良い…となったので書いてみました。🍴のロナくん、🍰だけど砂になるので問題ないドラの短い文。本人出てこないけどヒヨ兄も🍰。

    退治人ロナルドと甘い誘惑の日々『ごくん』と隣に座る赤い退治人の喉が音を立てた。横目で見たロナルドの表情は、いつもの営業スマイル。依頼人の前で顔色を変えずとも先ほどから続く唾を飲む音が状況を物語っている。ドラルクから見れば、それはひどく憐れだった。ロナルドの首元に変な汗が出始めている。このままでは終わると確信して、ドラルクはソファから立ち上がった。
    「ちょっと失礼〜」
    「おい!すみません、勝手な吸血鬼で……」
    「ヌヌヌ〜」
    依頼人に何やら謝るロナルドの声とジョンの声を聞きながらドラルクはキッチンのほうへ向かう。それから冷蔵庫を開けた。冷やしていたブラッドオレンジジュースのペットボトルを二本分、手に取った。片方のパッケージにはマジックで『ロナルド君専用』と書かれており、もう一本には書かれていない。コップ二つにそれぞれ注いだ。
    「どうぞ。ほら、ロナルド君も」
    ドラルクが盆に乗せてきたコップを見てロナルドが再び唾を飲んだ。一緒に暮らしていないと分からないくらいの動揺を浮かべて、ロナルドはコップを受け取る。一口飲んでホッとしたように息を吐いた。依頼人は「ありがとうございます」と言って受け取る。
    「それで、依頼の件ですが……」
    なんとか調子を戻したロナルドが依頼人との会話を終える。取り敢えずは解決し、依頼人の嬉しそうな顔を見送った。事務所のドアが閉まった途端、ロナルドはソファに向かって倒れる。緊張の糸が切れていた。
    「おい、ドラ公……助かった……」
    「ずっと隣で『ごくんごくん』言われたら流石に怖いでしょ。私じゃロナルド君を止められないし」
    「最悪だ、本当に最悪……全部俺が悪い……」
    倒れたまま、ロナルドはソファの背もたれを殴る。やり場のない怒りを柔らかな生地が吸い込んでいく。ロナルドは必死に耐えているがジュースの減りが異常に早かったのを見れば、我慢の限界まで来ていたことは明白だった。
    「さっきの人もケーキだったの?」
    「……ああ」
    「そう」
    ケーキ、それは世界における被捕食者の性質だ。一部の性質を持つ生き物にとって極上の食事対象。社会倫理を外れても得たいほどの美味しさだと言われている。そして、ドラルクはそのケーキの性質を持つ吸血鬼だった。食われる前に砂になってしまうためケーキとしての性質は全く意味をなさない。
    そして、残念ながらケーキ本人は自身の性質を自覚するのは不可能である。不幸な事件を生む理由の一つだ。
    「脳みそいじって食欲失くす方法とかねえのかな……」
    「恐ろしいこと言うな。人間らしさを失ってゴリラになっても知らんぞ、スナァ……」
    ロナルドの手元から飛んできたペンでドラルクが砂になった。再生のために砂がサラサラと固まっていく。
    「舌を切り落とすとか!」
    「喋れなくなるぞ」
    「もういっそ誰か殺してくれ……」
    「素直にかわいそうだな……」
    呆れたように言うドラルクの前でロナルドが再びソファに沈んだ。ロナルドは、ケーキと相対するフォークという性質を後天的に持っていた。味覚を持たず、ケーキを食すことでしか味を得られない。さらにケーキを前にすると、それを食わずにはいられない。つまり人間でありながら他者の血肉全てを食べたくなってしまう。血だけで済む吸血鬼もビックリな性質である。
    「他の人を傷つけたくない」
    ロナルドのはっきりとした言葉を聞くたびに、難儀な性格だなぁとドラルクは思った。フォークはケーキの人間を見分けることができる。フォークにとって味がするのはケーキのみ。それを知覚する能力を持つのは当然とも言えた。
    「ロナルド君は偉いよ。普通のフォークはいずれ血液で我慢できなくなって、大抵は殺人とか傷害で捕まっちゃうでしょ」
    フォークの欲求は強い。吸血鬼用の血液ボトルのようにフォーク向けの血液ボトルも流通している。ケーキの血液だけを集めた希少なものだ。ロナルドもジュースや食事に混ぜて何とか正気を保っている。しかし、フォークの欲求はいずれ爆発する可能性が高い。彼らにとってはケーキを捕食することが本能なのだ。きっとフォークの人生は常に砂漠で、ケーキだけがオアシスのようなものなのかもしれない。
    ロナルドはいつか自分が理性を失ってケーキを殺してしまうことを恐れている。フォークの最悪の末路とは殺人者として人を食い殺すことだ。
    「俺、いつまで退治人してられるんだろうな」
    「君なら大丈夫だよ」
    ロナルドが起き上がる。ガタガタと小さく手を震わせながら口を開いた。
    「……俺の兄貴さ、知ってるだろ」
    「吸対の隊長さんでしょ」
    ドラルクの脳裏にロナルドそっくりなカラーリングをした男が思い起こされる。もしかすると彼の方が弟と言われて信じる人間もいるかもしれない。
    「兄貴……ケーキなんだ……」
    「初耳」
    「会うたびに口に涎が溜まる。兄貴が美味しそうに見える。夢で何度も血だらけになった。すげぇ美味しいんだよ……俺、いつか現実の兄貴を殺すかもしれない」
    泣きそうな表情を浮かべて手を組む。罪人が懺悔をするように、旅人が祈るようにロナルドは言葉を吐き続ける。
    「吸血鬼退治人が、吸血鬼なんかよりよっぽど邪悪だ。家族が美味しそうに見えるなんて。俺は人を助けるために退治人を選んだのに」
    青い瞳から涙がこぼれ落ちた。他者と関わることが基本となる退治人は茨の道だ。出会った人間や吸血鬼にケーキが居たら、その時点で全ての理性と信用が瓦解する危険性を孕んでいる。
    「人助けがしたいだけなのに」
    いっそのことお兄さんを食べてしまってスッキリさせたほうが良いんじゃないの、とは言えない。人間は死んだら甦らない。
    愛があるから相手を食べるってこともある。しかしフォークのそれは白黒の世界に存在する唯一の色がケーキであり、そこに愛なんて存在しない。ケーキには一生分からない感覚だ。兄への愛を超えた本能的欲求。愛のせいに出来たら少しでも幸せだっただろうに。
    「ロナルド君、もう少しがんばろう」
    隣に座ってロナルドの頭を撫でた。小さな声で「ありがとう」と聞こえた後、ごくんと隣で唾を飲む音が聞こえた。
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