光合成 小高い丘の上にあるアパートは二階の部屋からでも景色が一望できた。坂道の上にある住宅地は通勤するだけでも良い運動になった。アルフェンはベランダの窓に寄りかかり、折り畳み椅子に座って外を眺めていた。両膝を抱えて、裸足の指を丸めては開く。ワイシャツ一枚をひっかけた姿で寒さを感じながら、鼻先で建物を数える。あそこが駅で、あそこがフィットネスクラブで、あそこが居酒屋で、あそこが前に借りていた部屋。少し開いた窓から冷たい風が流れてくる。カーテンが揺れる。濃い金木犀の匂いがした。去年の今頃は何をしていたっけ。ジルファに会いに行く前の生活が、とんと思い出せない。
「ジルファ、去年の今頃ってあんた何してた?」
ジルファは片付けていた手を止めると少し考えて
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