高瀬舟ヲ浄化セヨ(未完成)/ 夢小説消えた死刑囚と高瀬舟の設定
――手紙――
拝啓、孝行様へ。
草木生い茂る山を目一杯駆け抜けた日のことを覚えておられるでしょうか。
戦後間も無くして産まれた私達兄弟は、早くに両親を亡くし、祖母が住む京都に身を寄せておりましたね。家の裏手には山があり、私達はよくそこで遊んでおりました。
山を駆け回り、左右から鳴り響く蝉の声、水辺に群がる羽虫、木々に巣を張る蜘蛛や、遠くから聞こえる鳥や鹿の声など。沢山の生き物達を端で捉えながらも、私の意識は目の前を駆ける貴方の背ばかりを追いかけておりました。
あの日も、とても楽しかったことを今でも明明と覚えております。滴る汗を拭う事も、服が濡れるのを構う事もせず、ただ私は、貴方に早く追いつきたくてがむしゃらに身体を動かしたのです。
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