吉備回子のはなし一.桃⬛︎香り⬛︎⬛︎る血
――令和⬛︎⬛︎年。十二月。
――神奈川県警警察署内、取り調べ室。
だらしなく背もたれに背を預けて座る。短い足は辛うじて床に着く程度。その足を交互に振って、トン、トン、トン、と床を鳴らす。両手には重たい手錠が付けられ、霊力はそれにより封じ込められている。なので動かす気にもなれずに、机の上に置いていたまま。
僕の視界は、横の薄汚れた白い壁を映していた。なんの感情も持たず、ただ壁を見つめた。
はらり、と自身の桃色の髪が睫毛を撫でて膝に落ちたのを見ると同時に、「……おい」と男の声が耳に入る。
何も映さない朱色の瞳で彼を視界に入れれば、彼と目が合った。己が呼んだというのに、彼は顔を引き攣らせ生唾を飲んだ。瞳が揺れている。そこに見えるのは恐怖だ。彼は、僕に恐怖していた。
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