来た道を教えて将軍が褒美をくれるというから、剣をねだった。それだけならいつものことだけど、僕が今欲しいのは工造司の宝剣ではない。以前、将軍の物探しを手伝ったときに、蔵で見つけた古びた剣。僕はそれがひそかに欲しかったのだ。
「訓練用の剣だから、名のあるものでもないし、凝った意匠もない。本当にそんなガラクタでいいのかい」
将軍はなぜそんなものが欲しいのかと訝しげだ。それでも欲しいとしつこく言えば、将軍は渋々といった顔でそれを手渡してくれた。
赤茶けた鞘から剣を抜く。
将軍が先代剣首に師事し始めた幼い頃に使っていたという簡素な剣。将軍はその剣がまだ手元に残っていたことすら忘れていたらしいから、蔵で眠ったまま、当然手入れもされていない。錆びついて、柄には薄汚れた布切れが張り付いているさまは、見た目だけなら骨董品とすら言えない、とっくに棄てられていてもおかしくないものだった。
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