吸血姫<ヴァンパイアガール>と呼ばないで 岩谷尚美は吸血鬼である。
やや曇りが目立つ梅雨時の昼空、大学の構内にある公園にて、人気がまばらになったタイミングを見計らって紙パックの中身を啜る女子大生がベンチにひとり、そこに居た。
彼女は稀代の吸血鬼。
とはいえ、忌み嫌われる存在などではなく、まあわかりやすく簡単に言えば動物園にいるパンダ的な立ち位置である。
無意識に人目を引いてしまう存在であるので、人が大勢いるところはなるべく避けての行動ということもありあまり遊びに行けないのと、あとお約束通りに日中には弱いところがネックだ。あと寝起きも弱い。
関心の無いものにとっては珍しい者、ただそれだけ。
現に、今まで自身の生まれを気が付いてもとやかく言う者はおらず、ここまで平和に過ごしてきた。いい意味で、偏見も関心も無い関係に恵まれている。それこそ普通の人とは違う、吸血鬼であることなんて苦じゃないくらいには。
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