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    すたうさ

    @stusMZKZの主に作文倉庫。
    3Lと女体化が好きな雑食カプ厨です。

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    すたうさ

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    ※先天性女体化
    現パロ+吸血鬼パロ槍盾♀(初期槍×マイルド盾♀)

    ##たてゆ
    ##女体化

    吸血姫<ヴァンパイアガール>と呼ばないで 岩谷尚美は吸血鬼である。
     
     やや曇りが目立つ梅雨時の昼空、大学の構内にある公園にて、人気がまばらになったタイミングを見計らって紙パックの中身を啜る女子大生がベンチにひとり、そこに居た。
     彼女は稀代の吸血鬼。
     とはいえ、忌み嫌われる存在などではなく、まあわかりやすく簡単に言えば動物園にいるパンダ的な立ち位置である。
     無意識に人目を引いてしまう存在であるので、人が大勢いるところはなるべく避けての行動ということもありあまり遊びに行けないのと、あとお約束通りに日中には弱いところがネックだ。あと寝起きも弱い。
     関心の無いものにとっては珍しい者、ただそれだけ。
     現に、今まで自身の生まれを気が付いてもとやかく言う者はおらず、ここまで平和に過ごしてきた。いい意味で、偏見も関心も無い関係に恵まれている。それこそ普通の人とは違う、吸血鬼であることなんて苦じゃないくらいには。
     しかしながら彼女は先ほどまで楽しく昼食を過ごした学友たちに、紙パックの中身を知られることを快く思わない。故に人目を避けてから手に持ったそれを啜るのだ。
     
     そう。その中身こそ彼女の存在を肯定する証、人の血である。
     
    「ん~今日のは結構フルーティだ、美味しい」
     尚美はその味に頬を緩ませ、目を伏せてから舌先で風味を転がしては遊ぶ。鼻から抜けて香るぶどうが心地よい。ささやかな八重歯でストローを軽くかじる。
     希少種ということもあり、行政にこそ個体管理されているが、あるといえば定期的な血液の配給と生活上困ったことが無いかの聞き取りくらいだ。
     人間と同じ食事はとれるものの、吸血鬼にとって栄養価はほぼ無いに等しい。なにせ精気が無い。吸血鬼が生きる上で必要な養分は人間の生きる精気。ランチの味は楽しめるのに厄介なものだ、とこくこく飲み流して尚美は常々考える。
    (私にとってはご飯やおやつとかと変わりはないけど、みんなはそうじゃないだろうしなあ)
     最後の一口をじゅう、と行儀悪く強めにストローを吸って紙パックの中身を飲み干した。どうせ誰も見ていないと思うと、少し大胆になる。癖毛の黒髪がご機嫌に揺れた。
    「ごちそーさまでした!」
     今日も美味しかったとストローを奥まで差し込み、紙パックを丁寧に潰して折りたたむ。そのまま捨てるわけにはいかないので、次の配給時に回収してもらうためにビニール袋に入れて忘れず鞄にしまい込んだ。
     そうだ、そういえば端末の通知を確認していなかったと、そのまま下を向いて鞄を漁りだそうとし始めたところに、人の気配と共に不自然な陰りが尚美の回りを覆う。
    「ねえ、きみ」
     尚美の頭上から控えめに男性の声がかけられる。応じない訳にもいかないので鞄から手を引っ込めて、不思議がりながら声のする方向に目をやると、曇り空の下でも輝かしい金髪の男がそこに居た。
    「あ……北村、先輩? 飲み会以来ですね」
    「そうそう北村元康。覚えててくれたんだ! 嬉しいなあ」
    「まあ、先輩は色々と有名ですから……」
     尚美は在りし日の飲み会を思いだして遠い目をする。
     
     そういえばあの時、威圧し合う女性陣と男性陣の間に挟まれて居たたまれなかったな。もう早く帰りたい。酔えない酒を口にしても面白味は何一つも無いし。
     いつの間にかヒートアップしていく両陣を冷ややかな目で眺めていると、己が原因とは露知らず、呑気に声を掛けてきた人物がいた。
     それがその先輩である北村元康なのである。
     プレイボーイのモテ男である元康に女性陣は色めき立ち、男性陣は元康を敵視するという、なんとも悪循環な空間だった。どうやって抜け出したのだったか。とにかく逃げ出したくて、ついでに俺もと一緒に店を出たような。それを感謝されたような。あの空気が嫌すぎて逃げたのだけは覚えている。後日、女性陣に説明つけるのが大変だったな、なんて。
     しかし声を掛けてきた金髪の男は当時も人の良い笑顔を浮かべていたな、と尚美は目の前の顔を見て思い出していた。
     
     元康との出会いによって思い出されたいまだ苦い出来事を尚美が振り返っていると、にこにこと笑みを浮かべたままの元康が期待を抑えきれないように口を開く。
    「あははそういわれると悪い気はしないな! それより尚美ちゃん、だよね。あの、さっきの紙パック、何飲んでたの?」
     唐突な問いにどきりと心臓が跳ねる。……さっきの紙パックとは、何のことだ? そうだ、自分が飲み干した血液の事だ。
     思考が冷え始める。背筋が、凍った気がした。今まで誰だって気にしてこなかったのに、何故そんなことを訊くの?
     指先から血の気が引いて冷えを感じる。
    「え、と。ジュース、ですけど」
    「ふーんジュースねえ……」
    「あの、なにか?」
    「ジュースの紙パックならさ、そこのごみ箱に捨てられるのになんで持って帰るんだ?」
     不意に元康の言葉尻が強くなる。驚いた尚美は恐る恐る視線を合わせるが、彼の目の奥は濁って笑っていない気がした。
     間違いない、この人は『私』ではなく『吸血鬼』をみている。
    「う、それは」
    「人の血だから」
    「!」
    「ああやっぱりそうだ! きみは、吸血鬼なんだね……やっと会えた……!」
     うっとりとした声音で囁くと元康は両手でやんわりと、しかし逃すまいと尚美を頬を包んだ。手のひらがいやに汗ばんで熱を孕み、段々と荒くなる息が彼女の唇や頬をじっとり撫でる。
     彼の様子が見ていられなくて慌てて何とか顔を逸らすものの、力の入った元康の両手によって視線は強制的に再度向き合わさせられてしまった。
     これはいけない、明らかに様子がおかしい。しかし彼を止める術を尚美は知る由もない。それに何故か、まばらに居た人影も今は誰も居ない。どうして?
    (それはね、吸血鬼と人間が無意識にどうしようもなく惹かれ合う時があるの)
     いつぞやか祖母に教えてもらった言葉が尚美の脳内に思い浮かぶ。あれはいつだったか、なんで皆のようにお出かけして遊べないのか駄々をこねた時だったか。
     人の目を引く存在とはいえ、それがなぜ悪いことに繋がるのか。今になってじわじわと思い出されていく。
     
     吸血鬼と人間。
     捕食者と被捕食者。
     埋まることの無い人種の差。
     今でこそ共存の道を歩んでいるが、元々生きる世界が違った彼らが互いに持てる接点になるのはやはり血であり、それは不変である。
     捕食されると本能的に感じ取った人は吸血鬼に近づかない。好き好んで食べられに行く思考回路にはなっていないからだ。吸血鬼の妖気が恐ろしい。だから吸血鬼には生きるため消極的に人を襲っていた歴史がある。要は嫌われ者だ。
     だが妖気に当てられても、吸血鬼に恐れをなさない人間が稀にいた。それを勇敢ととるか、魅入られた無謀ととるか。吸血鬼と人間の橋渡しのようなその存在のほとんどは、自らを吸血鬼に一生を捧げて静かに暮らしたという。
     規律が整えられて年月が経った今となっては過去の話。
     むやみに出歩くと変に人の本能を刺激して良いことが起きないから、お友達を作って、もっと人との交流を練習して、もうちょっと大きくなってから少しづつ云々言われたっけな……まあ眉唾物に等しいと、幼い尚美はふーんと聞き流していた。
     
     確かにあの時より大きくなった今、小さい時より変な目で見られることも減った。妖気とやらも抑えられてるはず。
    (でも、なのに、何でこの人は……!)
     向かいの目の奥に何があるのかが恐ろしくなり、浅くはっはっと繰り返しては薄く開いて閉じない上唇と下唇の間に元康の親指が差し込まれていく。一本一本、両サイドから歯のでこぼこを愛おし気に撫でられていくが、尚美は正直生きた心地がしていない。
    「これ、この八重歯、この可愛らしい牙だ……なあ、紙パックの血なんて味気ないんじゃないか?」
    「う、あ……ひょんあころ、なひ……ひぐッ」
     捕らえられた顔は微動だにすることも許されず、元康の成すがままだ。差し込まれた指によって上手く話せずとも抵抗はしてみるものの、ひとつ、またひとつと湿った息が近づいてくる感覚に、どうしようもなく怖がる尚美の瞳は涙の膜をなみなみといきわたらせ始めていた。
    「あの飲み会の時に胸が熱くなる感覚を覚えたんだ。そうだ、食べてもらいたいんだって! だから、もしかしたらきみは吸血鬼で、俺はきみに食べてもらうために出会ったんじゃないかって」
    「ひら、ひらにゃひ! らえにゃい!」
    「いらない? そんな意地悪言わないでくれよ……もしかしてまだ直で人間の生き血飲んだことないのか? 美味いと思うんだけどな、特に俺みたいな健康体。どう?」
     にたりと元康は口元を歪ませると、自分の首元に近づかせようと屈んで尚美の顔を肩口に寄せる。次第に濃くなる香水が混じる体臭の生々しさにたじろいで、尚美は身動きが取れずにいた。
    「……いにゃ! やらあ……こわひ……は、はにゃひて、ううっ」
    「大丈夫、怖くないよ。ほら口を大きく開けて、俺の首筋にもっと近づいて」
    「ううああ、やら、だれ、だりぇかあ……!」
    「あれ、気が付いてない? 尚美ちゃん、妖気溢れてるから皆怖がってどっかいっちゃったよ」
    「……!」
     大きく見開いた瞳から、とうとう涙がぼろりと零れた。両目から次々流れてはあふれる涙はまろい頬を伝って元康の指や肩へとシミを作っていくが、それを気にも留めずに擦り寄っていく。
    「無意識に妖気出しちゃうなんて俺たち相性が良いんだね、嬉しいな……」
    「ひっ、う、うう……」
    「さあもう誰も居ないんだ。遠慮せずにその華奢な牙でどうか、どうか俺の首に傷をつけてくれないか。尚美ちゃんの、なおの初めてを俺にちょうだい」
    「あぐっ、や……やら、やめひぇ、……ひぅ、っく、あ……う――ッ!!」
     
    「あっ、おいおい、北村まーた女泣かせてるぞ」
    「あいつが女の子泣かせるなんて日常茶飯事じゃん。あーあかわいそー」
     そういうととある学生たちは通り過ぎていった。
     パニックがいよいよ極まって情けない叫び声をあげた尚美の耳にも、ざわざわと声が届いていく。
     尚美の心からの拒絶に妖気は霧散し、誰も居ないはずだった空間にぽつりぽつり、人が戻り始めたのだ。他人がいる。その安心感から尚美はまたしゃくりあげて嗚咽を漏らした。今はただ泣きたい。
    「うああ、ひっく、ひっ」
    「……? へ? ん?! あっええッ?! 俺、なんで、どうしてこんな、ああいやその前に、尚美ちゃんあのその、ごっごめん……!」
     不穏な雰囲気がようやくいつもの日常へと緩やかに変わっていくと、元康も冷静さを徐々に取り戻してはまず先に詫びを入れた。尚美の口から慌てて自身の指を引き抜いて思わず抱き寄せたが、それはかなり強めの拒否をされてしまう。力の入らない腕でも懸命に胸を押して抵抗の意志を見せる彼女の姿が痛々しく、そしてそうさせてしまった原因は悔しいことに覚えていないが自分にあるのだと。
    「本当、ごめんね……俺どうしたら」
    「っく、んく、ひと、ひとりにして、ください」
    「そっそれは出来ない! 女の子を放っておくだなんて」
    「じゃあ、っ私が、行きます。ではっ……」
    「尚美ちゃ」
    「……ひっ、く、あと私、人を傷つけられない、きゅうけ、つきなんですっ」
     そういうと尚美は赤くなった目を擦って足早に去って行ってしまった。ベンチに一人残された元康は屈んだ状態のまま深く息を吐き出して項垂れる。北村ドンマイ! と通り過ぎていく学生たちに嫌味な野次を投げられるが、ここはあえて片手を振って張りぼての余裕を作ってみせた。内心それどころでは無いが。
     やってしまった後悔を胸に抱えて、元康はまた深く沈んだ。
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