巧右ショート1、巧 が こちら を 見ている▼(1)
「おい」
然程大きな声でもないのに、その呼び掛けだけは真っ直ぐ豪に届いた。思えばいつだってそうだ。巧の声は、巧が投げる球のように真っ直ぐ、豪へ向かって飛んでくる。うん、そっくりだ。それが受け止められるかどうかはさもありなん、というところまで。
巧の視線が豪の手元に下る。先程買ったばかりのペットボトルは一口だけ飲んでそのままだ。汗をかいているみたいに湿っていて、少しぬるい。
「全然水減ってねーじゃん」
ちゃんと飲めよ。
そう言って巧はそっぽを向いた。先程までぴったり首に張り付いていたインナーを少しずらしている。扇いだ隙間から見える日に焼けた肌、桃色と白のコントラストを描く皮膚の上を、玉のような汗が伝った。豪は目を逸らした。何となく見ていられなかった。そう思った自分も馬鹿みたいだった。
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