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遠い記憶とともに仕舞い込んでいたノートのページを捲った。
料理の基本は食材の入手から始まる。事前に市場で注文しておいた紙袋を家の前で受け取ったのはつい先程のことだ。普段は個人宅へ配達なんてしていないだろうに、こうして商品を纏めて届けてくれた。
己には似付かわしくない家の名を、たまに利用するくらい罰は当たらないだろう。
国が安定した今、適切な形で食料が行き渡るようになった。こうして、いとも簡単に鮮度のいい食材を手に入れることができるようになったのは喜ばしい。国の復興から発展へと、目まぐるしく変化するトラン共和国を胃袋で感じるというのは何とも不思議な感覚だった。
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