「彼女が死んだ日だ」
ビクトールの、今までに見た事も無いくらいに真面目な顔で紡がれたその言葉に俺はただ、そうか、と応えただけだった。
朝っぱらから何の冗談だと殴る事も、何の話だと聞き返す事もしない。
それ以上聞く必要が無かった。
だが、奴の気遣うような態度に、少しだけ笑った。
酷く、爽やかな朝。
窓から差し込む陽光は冷たい石造りの城を暖めようとするかの如く差込み、城の人々に日の始まりを告げる。
日に日に増えて行く不安が無い訳では無いものの、既に勝利の見えて来た戦いに城内は浮き足立ったように騒がしい。
その騒がしさの一部でもある同郷の同室者二人と擦れ違いに入って来た男は俺の素っ気無い反応に驚いたようだった。
「もっと、驚いた方が良かったか?」
1946