欲しいものはなんでも手に入ると思っていた。俺は無敵だった。金でどうにか出来るものなんて楽勝だったし、人を貶めるのが得意だった俺は文字通り何だって思い通りにすることが出来ていたから、本気で無敵だと思っていた。
だから、アイツのガタを外しきったら俺の所まで堕ちてくれるんだと思っていた。けど、アイツは既に底の底だった。そして俺がその底に足をつけた頃には形兆の手は冷たかった。ギターが心臓の俺と違って柔らかい指先を、その時初めて触った。犯罪者になっちまったなあと思った。俺はその後窃盗罪で捕まった。
こいつの生は無かったことになった。
「アンタはさぁ」
そう形兆の方を見た。何だと文句を言いたげな目で睨まれたが咥えている肉まんのお陰でなんだか間が抜けて見えた。ガラに合わないマフラーを巻いていて随分と暖かそうな形兆に「一口頂戴」と目で伝える。形兆は俺の口元にずいと肉まんを寄越した所で「何だ」と口に出した。
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