桜木の機嫌が悪いのには薄々気づいていたが、自分には関係ないことだ。プレイが荒くなればファウルと取るだけ、腑抜けたプレイをしていれば尻を蹴るのも、力んでシュートを外したときに「ふざけたシュート打ってんじゃねえ、フォーム確認しろ」と口出しするのもいつものこと。
自分への苛烈な、全てを奪われそうな視線にももう慣れた。
着替え終わったロッカーの扉をバンッと荒々しく閉める桜木の様子に、流川はあえて大きなため息を吐いてみせた。
「モノに当たるな」
一年の頃なら、いやいつもの桜木なら「いちいちうるせえよキツネ」ぐらいは言い返してくるはずなのに、今日は何も言わない。そのままスポーツバッグを肩に掛け、ロッカーに背を預ける。流川が部誌を書き終えるのを待つつもりらしい。部室の戸締りは主将・副主将である自分たちのどちらかが行うことになっているのだが、流川も鍵を持っているので桜木が流川を待ってやる必要はない。先に帰らないのは責任感なのか意地なのか、それとも。
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