雷鳴が消えた日一.雷鳴が消えた日
硝子の向こうに広がるのは、この国を象徴するような果てまで続く雨曇りであった。雨は未だ降らぬが、雷は激しく鳴り響いている。
閃光は薄墨に溶けかかった室内を刹那に照らし、ふたりの男の顔を浮かび上がらせた。一方は寝台に伏した死にゆく老躯の男。もう一方は、その間近に腰を下ろした若い男だ。遠くで雷鳴が響いたのを合図にして、寝台の男はおもむろに口を開いた。
「お前を置いていくのだけが……心残りだな」
男の声はいかにも頑健そうであった。声だけを聞けば、とても死にゆく男のものだとは思えないだろう。それでも、男はその赤に深い悔恨を滲ませながら若い男に視線を移す。
「俺は…………この国を……お前が『生きる』と決めたことを後悔しないような国に、できただろうか……ユリウス」
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