耳を澄ますと波の音が聞こえる、海が近いからだろうか。白を基調とした広々とした部屋だ。しつらえに豪華さを添えるファブリックの明るい色が映える。
さりげなく置かれたラタン製の調度品は質の良さが伺える細やかな細工で編み込まれていて、リラックスした雰囲気がいかにも保養地らしい。
壁の一面にもうけられた大きな窓からは、午後の穏やかな光が燦々と降り注ぎ、グリュックを優しく温める。この季節でも温かな日差しは、北部高原のヴァイゼでは体験できないものだ。換気窓から吹き込む風も爽やかだ。
グリュックは窓際のラタンの寝椅子に体を横たえていた。常のどこか張り詰めたような様子はなく、心からくつろいでいるように見えた。その手にはグリュック家の書斎にあるものより、簡素な装丁の本が鎮座している。
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