かいみこ キーボードの上を走る手。
細い指だ——煙草を咥えた甲斐田は、ぼんやりとそう思った。
御子柴は険しい顔でパソコンに向かっている。もっとも、彼の朗らかな笑顔なんて見たことない。たまに悪態をつきながら、恐るべき速度でキーを叩く彼の背中を見下ろす。煙を吸って、吐いて。細い腕、肩、首。視線で辿ってゆく。
子供の身体だ。それ以上でもそれ以下でもない。多少背は伸びたにしても、細すぎる。
きっと誰かを殴ったこともない、貧相な身体だ。
甲斐田も人のことは言えない。殴るよりも、殴られることばかりの人生だった。そうしていつか殴られないように、媚びることばかり上手くなった。
——そういう奴が刃物を出すんだよ。
ここに入ってきたばかりの頃。そう笑っていた奴がいた。頭のネジが外れたシャブ中の男だったが、たまに本質を突くようなことを言う。気づけば姿を見なくなっていた。
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