憧れは彼女の形をしている。ーー刀のような人だった。
身体は玉鋼を重ねて鍛えあげた刀身のようで、前を見据える瞳は切っ先を思わせる。
熟練の刀鍛冶が、心血を注ぎ祈りをこめて鍛えれば、彼女になる。
そう思わせるような人だった。
**
ぴん、と伸びた背中が見える。ついで、さらりと動きにあわせて揺れる緑の黒髪を視界に捉えて、乙骨憂太は一瞬だけとんでいた意識を取り戻した。
任務中であれば命取りになりかねない隙だが、今は久しぶりの高専だ。任務中のように気を張りつめている必要はなく、憂太は細く息をついて窓の外を見つめる。
グラウンドでは自分以外の二年生達が訓練をしている。
憂太が参加していないのは、彼が任務地から戻ったばかりであり、任務中のことを五条に報告した帰りだからだ。授業に参加しようとする憂太を止めたのは、たまたま五条と一緒にいた医師の家入だ。医師の判断に逆らうのは得策ではなく、そして前提として他人の忠言を無闇に無視するような性格を憂太はしていない。
3534