秋雪舞うは、夢か現か。「今日は一段と冷えますね…」
寮への帰り道、ひとりごちた言葉は誰にも届かずに夜空へと消える。
こんな日につい思い出してしまうのは、雪が舞う中で行われたあの撮影のこと。
温めてもすぐに冷えてしまうこの指先を、あの人が温めてくれた時のこと。
単に温めてもらえたことが嬉しかったのではない。触れたくても触れられないその温かさに包まれたことが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
私の反応を見て笑ったその顔に、秘めた想いもが熱くなった。
あれからもう何年経っただろう。
熱は冷めることなく、想いはむしろあの日の雪のようにどんどん降り積もっている。
「聖川さん…」
そう口にするだけで、身体が温かくなるような気がする。
その身体から吐き出した熱を、冷えた指先にはぁとかけた。
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