真斗くんとトキヤくんがプールに行くお話「いちのせ!ぷーるだ!」
「うわぁ…!」
トキヤが真斗に手を引かれて足を踏み出すと、眼前に海が広がっていた。実際には海ではなく海を模した屋内プールだったが、あまりにも広いそれは、幼いトキヤにとっては本当に海のように感じた。
「いちのせ、ぷーるにはいるまえには、きちんとじゅんびうんどうをしなくてはならん」
「は、はいっ!」
真斗の指示に促されるままに準備運動を済ませると、真斗は再びトキヤの手を引きプール際へと引っ張った。「走ってはダメですよ!」そう強く言われていたから、小走りになりそうになるのを堪えて、早足でだ。
大人の人が持ってきてくれた浮き輪を装着し、いざ水の中へ。ドキドキとしながら水際に足を進める。
「つめたく、ない…?」
「おんすいぷーるだからだな」
冷たい水を想像していたトキヤは、想定外のことに目をまん丸にしていた。
「さぁ、いこう!」
先に入った真斗に続いて、ばしゃんと勢いよく飛び込んだ。
「わぁぁ」
プールは静かに波打っており、水温以外はまるで本当の海のようだった。
ぷかぷか、ばしゃばしゃ。真斗とトキヤは浮き輪に捕まったまま足をバタバタさせて泳いだり、ただ波に揺られたりして遊んだ。
「わ、わわ…!?」
ふいに急に大きな波がやってきて、トキヤがひっくり返った。
「いちのせ…!!」
真斗は慌ててトキヤに駆け寄った。幸い浅瀬まで流されていたから、足は着く。
「ぷは!」
水から顔を上げたトキヤを、真斗が心配そうにのぞき込む。
「いちのせ、だいじょうぶか?」
「…う…こわ、こわかったですっ…」
真斗の差し出した手に縋って、トキヤはわんわんと泣き始めてしまった。この様子ではこの波のプールでまた遊ぶのは難しいだろう。
「ああ、そうだ。いちのせ、こっちだ」
ぐずぐず、ひっくと、いまだ泣き止まないトキヤを連れて、真斗はプールサイドの出店へと向かった。
「ほら、これをたべるといい」
真斗が差し出したのは、青いシロップが掛かったかき氷だった。
「かきごおり…!」
それを見た途端に、トキヤの涙は引っ込み、その瞳はきらきらと輝いた。
「それをたべたら、またぷーるであそぼう」
「で、でも…」
「だいじょうぶだ。こんどはずっとてをつないでいるからな」
真斗がトキヤに手を重ねてそう言うと、トキヤは少しだけびっくりしてから、ふわりと笑った。