アクスタ企画用村たぬ(穂半)「伸びてきたな爪が」
縁側でまどろんでいると男の声が聞こえた。床の上に放り出した自分の手足を見ての言葉だというのはすぐに分かったが、少年は黙って目を細めた。返事をする代わりに欠伸を漏らす。
男に指摘されて初めて、今まで指先など気にせず過ごしていたことに少年は気づいた。以前は大半を野性の姿で過ごしていたからだ。それに爪なんて自然に削れるし、伸びたら折れたり剥がれたりするものだという認識しかなかった。
男は少年に寄り添うように座り、その小さな手を取った。春の日差しのような温もりが掌に接する。水でも触っていたのか、それとも何か作業をして汗をかいたのか、その大きな手は湿り気を帯びていた。
感情の抑揚が少ない男の切れ長がじっと少年の手を見つめている。同い年の仲間より小柄であるという自覚はあったが、男の手と比べると大人と子供のような差がある。年齢はそれほど変わらないにもかかわらずだ。そんな一回り半ほど小さな手を握った彼は飽きもせずにじっと見ている。
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