若主のプロポーズについて本気出して考えてみた あの頃の私はまだ子供で、ただの生徒にすぎなくて、先生のためになることをなに一つできずにいた。
なじみの定食屋さんが一週間ほど閉まるから、しばらく缶詰とご飯で過ごさなくてはいけない。先生がそう言っていた高校二年の秋も、私は食事の差し入れすらできる立場にいなくて、ただ「献立を一緒に考えましょうか」なんて言うことしかできなかった。
そのときの、ぱっと花開くような優しい笑顔、素直すぎるくらいに喜ぶ無邪気さ——先生の全てが眩しくて、ただひたすらに「好き」だと思った。
自分の感情がいけないものだということはわかっていた。誰も幸せにしないということも、なんとなく気がついていた。
だからあの時、私は溢れ出しそうになる「好き」を必死に呑み込んで言ったのだ。
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