書きかけてやめたお健全な玲マリちゃん おでこへのキスが二度。唇へのキスは一度だけ。何度指折り数えてみても、大好きな彼の唇に触れた回数は増える気配がない。確かに想いを伝え合って恋人同士になれたはずなのに、こうも乾いた日々が続くと、あの教会での告白は夢だったのではないかとすら思える。美奈子はため息を一つ吐いた。
すると、すかさず隣から響いてくる、低く優しい声。
「どうした? 何かあったか?」
耳朶を震わせるその響きと、手のひらを包み込む彼のぬくもりが、目の前に広がる景色が夢ではないことを伝えてくれている。そう、これは夢じゃない。教会での告白もファーストキスも、久しぶりの遊園地デートも、隣で手を繋いでくれている玲太の存在も、全て現実のものとして、今という瞬間に続いている。
私は、風真玲太くんの彼女。キスがしたいなら、いつだってしていい。紛れもない真実を、美奈子は奥歯で噛み締める。
今日こそは二度目のキスをするのだという、強い決意と共に。
♢
運命のように結ばれた卒業式の日から、約半年。恋人同士になってから初めて迎える夏に、玲太から遊園地に誘われた時点で美奈子は覚悟を決めていた。
二人きりで過ごしても指先を絡ませるのが精一杯で、それ以上の触れ合いは皆無。キスなどとは無縁のままで、付き合う前の方がよほどスキンシップが多かったように思える。正直に言って、焦れったかった。
もう大学生なのに。気持ちを確かめ合ったのに。一度はキスをしたのに。もやもやした気持ちが膨らんで限界に達した美奈子が考案したのは、名付けて『二度目のキス作戦』。そのままだが、それ以外の目的はないのだからいたしかたない。
作戦はいたってシンプルで、夕陽の差し込む観覧車に乗り込んで二人きりの空間を作り、こちらからキスを仕掛ける。それだけだ。