「本当にもうここで……」
「そう?」
頑なに断り続ける彼女の言葉に応じると、露骨にホッとした顔をされた。最寄り駅からずるずると家の近くまで一緒に歩いてきていた。
「……あっごめん、最後にトイレだけ借りていいかな」
「え」
「もう限界でさ、借りたらすぐ帰るからお願い!」
彼女は取引先の担当者の部下だ。こちらをあまり無下にも扱えないのは分かっている。切羽詰まった顔を作って手を顔の前で合わせると、困った顔になったものの作り笑顔で頷いた。
本当に角を曲がってすぐのところに彼女の家はあった。撒くための嘘じゃなかったんだな。今日の飲み会で一人暮らしあるあるを言い合って盛り上がっていたから、てっきりマンション住まいだと思っていたが、案内されたのは二階建ての一軒家だった。
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