蒼空死体問答真夏の木陰は冷房のきいた部屋と同じくらい気分がいい。温度差はかなりあるはずなのに、不思議だ。
日課になったランニングを終えて、川沿いの広場にある大きな木の下で息を整えていると、同じく汗を拭っていた雨彦が隣にやってきた。
「涼しいな」
「涼しいですねー」
湯だった頭を蝉の絶唱が貫いていく。
揺らめく木漏れ日と深緑の葉。曲がりくねった幹。怖いくらいに、青い空。
「…桜ですね、この樹」
「ああ、春も忙しかったろうに…夏まで世話になっちまってるな」
「…」
会話が途切れる。息は大分整ってきた。
「……『桜の樹の下には』」
「?」
「…この真夏の桜の下にも、死体は埋まっているのかなー」
ざわざわざわ。
誰の声も聞こえない。ただ秘密を暴かれそうになった桜の葉が擦れる音と、それを全く意に介さぬ蝉たちが喚きつづけている。
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