大晦日の夜、「兄貴は家を出てったよ」と柚葉に聞かされたのは数刻前。お互いに死力を尽くしたあの日からまだ一週間も経っていないが、元々この数年は生家にはあまり寄りつかなくなっていたようだ。残されていた荷物をまとめ、あっさりと出ていってしまったらしい。なにも路頭に迷ったわけではないと頭では理解しているが、以前交渉をするために訪ねた、生活感のない部屋を思い出す。
新年を仲間たちと迎え、夜更かしをさせた妹たちを寝かしつけた深夜、興奮冷めやらぬ街を愛機と駆け抜け、再び彼の元を訪れてみた。外から見えたマンションのエントランスには立派な門松が飾られていて、きっとあの日は大きなクリスマスツリーもあったのだろう。
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