クラシック(悩みとコーヒー) 狡噛の部屋に行くと、音楽が流れていた。それもクラシック、詳しくは知らないから分からないが、ざっくりというと管弦楽で、いかにも彼が好きそうなものだった。本を読む彼にこれは? と言う顔をすると、出島のマーケットで捨てられそうになったのを買い取ったのだという。馴染みの店主だから安くしてもらったよ、とは彼の弁だ。俺は売りつけられたのではないかと疑ったが、それにしては音の状態は良く美しい調べだった。
「コーヒーは?」
狡噛が言う。俺は砂糖を二つ、と甘い注文をして、くるくると回るレコードを見つめた。狡噛の部屋には本だけではなくレコードも多かった。俺はどちらにも興味はなかったから知らないが、これも彼を構成するものの一つなのだろう。
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