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    @harunoyoiyami

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    ゆるふわ長髪ハーフポニテお兄さんとリーマン俺の夢小説(テキスト投稿テスト

    #創作
    creation
    #オリジナル
    original

    週末によく行く飲み屋がある。酒がメインなのだがやけに食事メニューが豊富で美味いので、料理目当てに通う客もそれなりにいる店だ。店主はバーだと言い張るが雰囲気としては居酒屋に近いので、肩肘張らずに飲めるのも気に入っていた。
     店の外観だけは洒落ているので初見の客がよく混乱しているのを見かける。かく言う俺も初めて先輩に連れてこられた時にはだいぶ戸惑った記憶があった。とはいえ店主のママは(男なのだが、ママをママと呼ばない客はこの店にはいられない)気さくで話しやすいし、静かに飲みたい時には適度に放っておいてくれる。何より酒も飯も美味いので、慣れてしまえばとても居心地のいい店だ。
     仕事をようやく終えた週末の帰り道、俺は疲れた足を引きずって一週間ぶりに店を訪れた。酒も飲みたいがとにかく先に何か腹に入れたい。ママは空腹のまま酒を飲むことにあまりいい顔をしないので、何か食べたいと言えばすぐに出来るものを作ってくれる。そういう融通が利くくらいには何度も通って顔馴染みになっていた。
     客引きを避けながら煌びやかなネオン街を抜けて、少し外れた路地に入る。雰囲気のよいバーや居酒屋が点在する一角にその店はあった。見た目だけは相変わらずちょっとした高級店みたいな佇まいで、俺みたいなくたびれリーマンにはとても見合わない店構えだ。やたらつるつるした手触りの把手を握り、重たい扉を開くと頭の上の方でかららん、と軽快なベルの音がなった。
    「あら、いらっしゃい。今日も草臥れてるわねぇ」
     店内に入った途端、飲み屋特有の賑やかな空気に包まれる。カウンターの向こうで調理をしていたらしいママが顔を上げてにっこり笑った。しっかりしたキッチンが併設されているので、そこだけ見ればバーのカウンターというよりは大衆食堂のようにも見える。
    「こんばんは、ママ。とりあえずすげー腹減ってるんだけど、いつものやついいですか」
    「あんたの顔見た時からそう言うだろうって思ってたわ。ちょっと待つけど、いい?」
    「もちろん」
     ちら、とテーブル席の方を伺うと、だいぶ出来上がっている様子の一団があった。空いている時にはテーブル席で食事を取ることもあるが、今日は無難にカウンター席にいた方がよさそうだ。スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めてようやく一息つく。
     カウンター席の端には先客があった。猫背がちなのか少し丸まった背中に、長く伸びた髪がウェーブを描いて流れている。俺が見ているのに気づいたのか相手もふと顔を上げてこちらを見返してきた。酔っ払い特有のとろんとした目がちょっと細められて、片手がひらりと掲げられる。
    「こんばんはぁ、お兄さん。お仕事おつかれさまー」
    「え、……あ、どうも」
     機嫌良さそうににこにこ手を振られて、思わず戸惑ってしまう。姿を見たことは何度もあったが、直接会話をするのはこれが初めてかもしれない。軽く会釈をするとやはりにこにこ笑っていた。今日も随分飲んでいるようだ。
     既に何度も通って常連になっているこの店で、何故か毎週必ず見かけるのがこの人だった。カウンター席の一番端、ではなく一つ空けてその隣の席にいつも座っている。よれよれのTシャツを着た長髪の男だ。見たところまだ若いようにも見えるが、たぶん俺よりは年上だろうと思う。
    「今日は賑やかでいいよねぇ、おれ、静かなのもいいけどこういうのも好きだなぁ」
    「はぁ、そう、ですね。ええと……」
     けらけらと笑い声混じりに会話は続く。どうしようか、とちょっと迷った。確かに今日は普段よりも店内は賑やかだ。別に一人で飲みたいという気分でもないし、せっかく話しかけられたのだし、常連同士一緒に飲むのもいいかもしれない。
    「あー、その。隣、いいですか」
    「うん、いいよー。飲もう飲もう! ママ、おかわりちょうだーい」
     念の為に声をかけたが、断られなかったのでそのままカウンターの隣の席に座る。足元に置いてある籠に荷物を入れて息をつくと、目の前に徐に小皿が置かれた。ほこほこ湯気が立っているそれはママ特製の玉子焼きだ。
    「待たせちゃって悪いわね、とりあえずこれでも腹に入れといて。……アンタはちょっと飲み過ぎよ! 水でも飲んでなさい!」
    「ええー、やだー! ……おみず、おいしい」
    「ありがとう、ママ」
     ママの料理はハズレがほとんどないが(たまに謎の創作料理に挑戦して失敗することはあるらしい)、中でも玉子焼きは絶品だ。客の好みに合わせて甘いタイプも塩っぱいタイプも両方作ってくれる。俺は玉子焼きは甘いのが好きなので、ママにいつも甘い玉子焼きを注文していた。ふわふわのそれを箸で口に運ぶと、とろりと舌の上で解けるようにとろけるのがたまらない。
    「いいなー、おいしそう。ママー、おれも玉子焼き食べたいなー」
    「後で作ってあげるわよ。順番ってもんがあるでしょ」
     ちびちび水を飲みながら長髪お兄さんがママに絡んでいる。俺はというと空っぽの胃に玉子焼きが優しくしみて、ようやくちょっと元気が出てきたところだ。今は水を舐めているお兄さんの手元には空いたグラスが一つあった。大きな氷が残っているからウイスキーか何かだろうか。
    「ねえねえ、お兄さん毎週ここに来るよね。お仕事なにしてんの?」
    「え? えっと……普通の会社員ですよ」
    「サラリーマンかー、大変だねー。じゃあやっと週末だーって感じなんだ。邪魔してごめんね?」
    「いや、別にそんなことないですよ。どっちみち一人だし、でも別に一人で飲むのが好きってわけでもないんで」
     単純に誰とも予定が合わないし、わざわざ調整してまで飲みに行くという機会がないだけだ。一人でいたいわけではないが結果的に一人になることが多い。世のお一人様というのは大体そんなものじゃないだろうか。誰かと一緒でも苦にならないけれども、一人でいるのも別に嫌ではない。
    「ふうん、一緒だね。じゃあ独り者同士、今日はなかよくやろうよ」
     空いたグラスに残った氷を、お兄さんが指先でカラカラ鳴らす。その左手の薬指に銀色のリングが光るのを見て、何故か心臓が軽く跳ねた。毎週ここで飲んだくれているのを見ているから、てっきり独身だと思っていたのに。
    「あの……」
    「はいはい、いつものやつ、お待たせ! 温かいうちにちゃっちゃと食べちゃって!」
     お兄さんに話しかけようとしたその時、ママの大きな手が皿をどん、と俺の目の前に置いた。いつものやつーー俺がほとんど毎回注文する、ママお手製の鳥の唐揚げだ。途端にぐう、と腹の虫が鳴き出して、空腹を思い出した俺は引き寄せられるように唐揚げをぱくりと頬張った。カリカリの衣が口の中のやわらかいところを刺すが、構わずに前歯で噛み切る。じゅわりと脂と肉汁が溢れるのと同時にとんでもない熱さに襲われて、はふはふ金魚みたいに口を開けてしまう。
    「火傷しないように気をつけなさいよ。今日はご飯もあるけど、どうする?」
    「はふ……ご飯、も、ほしい、です」
    「サービスでお味噌汁もつけてあげるわ。それとビールでいいのよね?」
     こくこくと頷いて返す。完全に定食になってしまうが、それが普通に出てくるのがこの店のいいところだ。ようやく唐揚げを飲み込んで息をついた俺を見て、隣でお兄さんがけらけら笑う。
    「よっぽどおなかすいてたんだー。でもわかるなー、ママのご飯美味しいもんね」
    「よく言うわよ。アンタ、つまみになるようなものしか食べないじゃないの」
    「えー、だってお酒のお店じゃん。おつまみがあれば十分だよー」
    「ちゃんと毎食メシを食えって言ってんのよ」
     ジョッキ一杯のビールをママから受け取りながら、二人の会話を聞いていた。ママはどんな客にも遠慮をしない人だが、このお兄さんに対してはそれ以上の親しみがあるように思える。俺なんかよりもずっと長く店に通っているのだろうか。唐揚げをもう一つ口に入れると、お兄さんがぱっとこちらを向いた。
    「俺ももうちょっと飲みたいなー。水飲んだから抜けてきちゃったよ。ママ、おかわりー」
    「……しょうがないわね」
     渋い顔をしながら、ママが背後の棚からウイスキーのボトルを取り出す。お兄さんはにこにこしながらそれを見ていた。酒が入ると機嫌がよくなるタイプなのか、はたまた素なのか。もぐもぐご飯を頬張りながらなんとなく様子を伺っていると、不意にママと目が合った。
    「アンタは大丈夫そうだけど、こんな飲んだくれとあんまり関わっちゃ駄目よ。ロクデナシなんだから」
    「ひどーいひどーい。飲んだくれなのは否定しないけどー」
    「うるさいわね。アンタ、もしうちの大事な常連さんに手を出したら今度こそ出禁にするわよ。そういうのはそういうトコでやってちょうだい」
    「はぁーい」
     受け取ったグラスをまたちびちびと舐めながら、お兄さんが渋々といった様子で返事をする。会話の内容はよくわからなかったが、どうやら釘を差されたらしいことはなんとなくわかった。意外だな、とも思う。普段のママは常連客同士が親しくなるのをむしろ喜んでいるような節があったのだが。
    「でも、たまにこうやって話しながら飲むくらいはいいですよね?」
     敢えて二人の会話に割って入る。ママがちょっとだけ目を丸くしてこちらを見た。しょぼくれていたお兄さんがぱっと表情を明るくする。
    「おー、おにーさん話がわかる人だね! そうだよねー、お酒を一緒に飲むくらいなんてことないもんね!」
    「ちょっと、アンタねぇ」
    「ママも聞いてるんだからへーきへーき! よし、今日はいっぱい飲むぞー!」
    「アンタはそれで終わりよ、バカ! ……全く」
     何がそんなに楽しいのかわからないが、急にテンションの上がったお兄さんが俺の背中をばしばしと叩く。大して痛くもないそれに俺も何故だか妙に楽しくなって、けらけら笑う俺たちをママが呆れた様子で見ていた。いつも一人でいるお兄さんのことを、本当はどこか気になっていたのだ。静かでぼんやりしている印象だったから、こんなに明るくて賑やかな人だとは思わなかったけれども。
     来週またここで会ったら、今度はこっちから声をかけてみようと思う。ママは渋い顔をするかもしれないが、飲み友達が増えるくらいどうってことはないだろうし。そう考えながら、お兄さんに煽られるままに俺は残りのビールを一気に飲み干した。
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