今はまだ、いつかの話。「拓海さん? 起きてください。あーさーでーす、よー?」
「んん……」
仕事で疲れ切った体で、泥に沈むように寝付いた翌朝。愛しい恋人の、甘くて柔らかい声がして、ついもったいなくて枕に顔をこすりつける。
うつ伏せになってまだ起きたくない、と休日を満喫するかのようなごね方をしたけれど、恋人はわかりきっている、とでもいうように吐息で笑って、「えいっ」と体を仰向けにさせた。
「ね、拓海さん。おはよう?」
窓から差し込む、少し高くなった日差しを受けながら、明宏がとろりと目を細めて笑いかける。朝ご飯を作っていたのだろう。エプロンをしっかりと身に着けて困ったように笑うその目にぐらりと腹の奥がとぐろを巻いたけれど、ぐっとこらえてようやくあくびを一つして誤魔化し、体を起こした。
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