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    byaaaa_hp

    避難所

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    第2回じゅしひと利き小説参考作品です

    依存ゆさ、と右肩に重みが増して見てみると、また獄さんがオレの肩に頭をもたれかけ、うとうとし始めていた。

    現在ここは獄さんの家。大きい液晶画面のあるリビングで、一時間前まで空却さんと一緒にラップバトルの試合の動画を振り返っていた。空却さんはお父さんに呼び出されて帰ってしまい、今こうして獄さんとソファに並んで座っているのは午後十時過ぎ。
    オレにとってはそこまで遅い時間でもない。でも、数日間の連勤疲れと、空却さんの突発的で強引なラップバトル振り返り会のコンボを食らった獄さんは、ウィスキーをちびちび飲んでいたせいもあってさっきからかっくんかっくんしていた。オレの右肩に数回ぶつかり、その度にすまん、と顔を上げては明らかに眠気に耐えられていない様子。「そのまま寝ちゃうと風邪ひくから寝室行くっすよ」と一回促したが、獄さんがあまりにも動きたくなさそうだったからとりあえず今連れていくのは諦めた。
    話す相手も居ない、眠くもない、そして肩に恋人の頭が乗っかっている状態では身動きも取れない。そんな状況でオレは、少し天井の方を見つめて、でもやっぱりその『肩に乗っかった恋人』のことを考えざるを得ないのだった。

    「もう、三年になるんすねぇ」

    一人呟く。
     視界の端に見える薄い色の髪の毛は、その主が息をする動きに合わせてふわふわするだけで、何も答えない。
    「正直、未だになんでだろう、って思うことがあるっす。オレのこと、なんで恋人として認めてくれたんだろうって」
    ちらりと視線を右肩の方に下げた。その先に顔全体は見えず、ただ長いまつ毛と通った鼻筋が、オレンジ色のリビングの照明を受けて柔らかくその輪郭を現す。
    安眠している時、人は一番無防備だ。無意識下、その状態で何かを隠すことなんて不可能。喋らなくても動かなくても、ありのままの姿を晒すことになる。
    この人が、こんな姿を自分に見せてくれるようになったのはいつからだっけ。
    「最初は、依存するなって突き放されたしなぁ」
    当時を思い出して、オレはすっかり懐かしい気分になっていることに驚いた。この人と年月を重ねた実感が、肩にのしかかるあたたかい重力と共にじわじわとオレの心を満たしていく。

    獄さんが今自分によりかかっていること。オレが獄さんに何度も好きだと言いに行ったこと。
    それは獄さんがオレによりかかりたくて、オレが獄さんのことを好きだから。

    怖い、って言っていた。付き合って間もない頃のいつだったか、薄暗い布団の中で、少し硬い顔をして。────本当は、逆なんだと。確かにBATでチームを組む前のお前は判断を人に委ねる癖があった。でも、修行のおかげかそんなこともあまり無くなったというのに、俺はお前を依存していると評して突き放した。……それは、距離を縮めた後にお前が俺を突き放す未来を、想像以上に拒む自分がいたから。そんなことを考える俺の方が、お前の存在にに依存している、それに気づいて怖くなった。嫌気がさした。だから、お前がまだ俺に依存していることにして、近づくお前から離れようとした、と。
    そんなことを、言っていた。
    すまない、引いたよな、なんて言い出す前にオレが口を塞いじゃったから、それ以上のことは聞けなかった。

    「オレは全然、今のこの関係が依存だなんて思わないけど」

     だってこれは、オレたちの意思だ。
     オレの勝手で何度も獄さんに会いに行ったのと同じように、獄さんだって勝手に、あれだけ焦らしておいたくせに、オレの気持ちを認めて付き合い出したんじゃないか。怖いって思ってたのに、それを越えようとしてくれた。でも、未だにその真意ははっきりと伝えてくれないんだ。ほんと身勝手。……そして、オレの方も。
    ――――きっと、どこまでも自分の意思で、オレたちは今ここで肩を寄せているんだ。

    ねぇ、獄さん。
    三年経った今、まだ怖いっすか。
    今のこの関係を、どう思ってくれてるのか分かんないっすけど、ほんとは知りたいっすけど、でも。
    獄さんが話したい時に、寄りかかりたい時に、こうして求めてくれたら、オレはそれが一番心地いい。
    だから怖がらないでほしいっす。
    これからも獄さんの思うがままに、身を預けてください。
    オレも、オレが思うがままに、ずっとあなたを愛していくから。
    だから、
    「……もう起こしていいっすよね」



    ◆◆◆

    ほら獄さん、ちょっと眠れたところでお風呂入ってください、このまま朝になったら風邪ひくっすから!ねぇ!自分もそろそろお風呂入りたいっす!
    うるせぇな。さっきまでぼそぼそ言ってただけだったのに。

    とは言わなかったが、目を閉じたまま眉をしかめた俺の表情に気がついたのか、喚く声と左腿をぺちぺち叩く音が止んだ。
    薄目を開けると、困った表情でハの字眉になっている恋人の顔がこちらを覗き込んでいる。あまりにも愛おしい顔。衝動的にその可憐な唇を奪いに行った。恋人は目を白黒させた後、美しい瞳を閉じて俺の舌を受け入れる。
    ぱっと離れて、俺が少し口角をあげると、鼻先が触れそうな位置のまま、恋人は何かに気づいた様子で顔を赤く染めた。も、もしかして、寝てなかったとか……?!だとしたら、なんで、その、ずっと肩に、とわたわたしている。
    「いや、寝てはいた」
    途中までな。

    ……もう寝ていないのに、目も開けないし肩から動かなかったなんて、悪かったか?

    これが、こういう関係が、依存じゃないとお前が言っても、俺は依存と評してしまうかもしれない。だってこんなにも俺は、お前に寄りかかってしまいたい時がある。

    お前がいなくても生きてはいけるが、お前がいないと悲しい。

    少しとはいえ酒が入った脳みそだからだろうか、ふらついた事を考え出した俺は、さっきまで困惑顔だった十四が、いつの間にかこちらを見て嬉しそうに笑っているのに気がついた。

    つられて俺も笑った。

    一緒にお風呂入りたいっす!と十四が言った。

    「お前風呂長いからやだ」
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