監督生と僕は所謂『お付き合い』をしていた。
この男子校で、まさかこの僕が、まさか異世界から現れたという三次元の女の子と、お付き合い。
彼女はとても気さくで、こんな僕にでも優しく接してくれて。リアルに免疫のない僕は、簡単に彼女を好きになってしまった。
好きで、好きで。
好きすぎて。
離したくない。
他の奴らと話してほしくない。
君の笑顔を他に見せないで。
君の全ては僕のものだから。
「え?」
だから君が、僕の言った言葉に表情を曇らせたのが、僕には理解できなかった。
「だ、だから……僕の家に来ればいいよって、言ったんだけど……」
「それは……」
「卒業したら君に居場所なんて無いだろ? あのマブたちだって卒業と共に、はいバイバイ、だろうし? 学園長だってそこまで面倒見るつもりは無さそうだし。こんな世界に一人放り出されて生きていける? だって君、今だってあっちこっちの寮を渡り歩いてさ、一人では何もできないじゃん。ど……どうせ他の寮長ともよろしくヤッてんじゃないの? お、おかしいと思ったんだ、拙者みたいな陰キャに構うなんて裏があるに決まってる。で、でも拙者は心が広いですし? そんな尻軽な君を一人放っておいて死なれでもしたらさ、魂がウチに来ちゃうじゃん? 拙者のとこの仕事増えるし、や、厄介じゃんか、異世界の魂とか扱い分かりませんし? それならいっそこっちの世界の者として受け入れて……」
「私、帰りますから」
止まらない僕の言葉を遮って監督生は静かに言った。
「私、絶対に自分の世界に帰ります」
真っ直ぐに、そしてその目に怒気を含めて。
「イデア先輩、私のことそんなふうに思ってたんですね」
寮に戻ります。
そう告げて監督生は荷物を持って立とうとした。慌てて座っていたゲーミングチェアから飛び降りて彼女の前に立つ。
「は、話は終わってませんけど?」
「私はイデア先輩と話すことありません」
「拙者にはありますが? 本当君って自己中だよね」
「私にはイデア先輩の方が自己中だと思います」
「はァ?? 勝手に自分の世界に帰るとか言うくせに??」
「最初から私はそのつもり……!」
「へぇ?」
掴んだ手首はとても細くて、君が女の子なんだと再認識する。
「最初っから、帰るつもりで、僕と恋人ごっこしてたの?」
「…………ッ」
大好きで。
僕には君しか居ないと。
「ふざけるなよッ!!!!」
「きゃっ!」
掴んだ手首を振り払って、彼女の後方にあるベッドへと押し倒す。
「この世界での暇つぶし? ははっ、拙者みたいな陰キャオタクが本気になってるのを、あのマブ達と笑い者にしてたんだろ? 残念! 相手が悪かったスなぁ〜!」
ベッドサイドの棚から小瓶を取り出して、片手でキュポンとコルク栓を抜く。
ゆらりと彼女の目の前でそれを揺らして、瓶越しにニタリと笑った。
「なにっ……それっ……」
恐怖に引き攣った監督生の顔。
あぁ、初めて見る顔。
まだ知らない彼女の顔がある。
「キモチヨクなるお薬だよ」
「んぐっ!」
強引に彼女の口に突っ込んで、なるべく溢さないように頭を持ち上げてやって飲ませる。
空っぽになった瓶を放り投げて、着ていたパーカーも脱ぎ捨てた。
「中出し孕ませ、子作り本気セックス。何本勝負でイキますかなぁ?」
「いっ……イデア、せんぱ……」
カチカチと奥歯を鳴らせて、目には薄っすらと涙の膜を張って。
「大丈夫、君が今日明日くらいが排卵日だっていうの、ちゃあ〜んとチェック済みですぞ♡」
***
「っ♡ やっ♡ っ♡」
「フヒヒっ、監督生氏アクメ顔も可愛い♡」
どれだけ注ぎ込んだかわからない。ゴポゴポと秘部から白濁汁を溢れさせて、ヒクヒクと身体は小さく痙攣を繰り返している。
いやだ、やめてと言っていた口は、声にならない声を発していた。
「…………いやだ、なんて言わないでよ……」
聞きたくなかった。
僕を拒む言葉を。
君が孕めば、こっちの世界に残ってくれるんじゃないかって。
浅ましい僕はそんな方法しか思いつかなくて。
そんな事しなくても、君が大事だから、側に居て欲しいって伝えられたらどれほど良かっただろう。
意気地無しの僕は、床に転がった小瓶を眺めた。
「…………避妊薬だよ、バーーーカ……」